Episode9 おやすみ ページ6
.
次の日の朝。
私は勢いよくリビングへと駆けこんだ。
勢いよく押し開けたガラスの扉がぐわんと聞いたことのない音を立てる。
「雅紀！！」
私の大声に朝食の準備をしていた雅紀は顔をしかめながら振り返る。
「なんですかお嬢様、そのような大声を出されて。それに、そんなふうに乱暴に扉を開けるものではありませんよ」
「答えなさい雅紀。潤くんと連絡が取れないのはあなたのせいなの？」
スマホを手にずいと雅紀に迫る。
雅紀は「あぁ」と息のような声を漏らした。
手にした布巾をテーブルへ丁寧に置くと私の差し出したスマホを片手で押し戻す。
「それなら松本様ご本人に同意をいただきましたよ。お嬢様の連絡先を消したまま、お嬢様からの連絡にも出ないようにと」
「どうして…」
「おや、当然ですよ。あの日だけ特別という約束でしたから」
「そんな…！」
だから潤くんはあんな顔をしていたんだと思い至る。
いなくなってしまいそうだと感じたのは間違いじゃなかったんだ。
昨日改めて交換した連絡先に何度かけてもつながらない電話をぎゅっと握りしめたまま私は力なくその手を降ろした。
「どうしてよ」
怒りと悲しみが混ざったまま私は声を出す。
ほんのちょっと震えた声はたぶん私の心のままだった。
「お嬢様が危険な目に遭ったのは彼のせいです。その彼と今後も仲良くというわけにはいきません」
「そんなの……ひどい」
「なんとでもおっしゃってください。私にはお嬢様をお守りする義務がございます」
背の高い雅紀を精一杯にらむ。
けれど雅紀はその整った顔を崩すこともせず涼しい顔で、しかも優雅な所作で私へと手のひらを向けた。
「ではお嬢様、その連絡先も消させていただきますよ」
「いや」
「なりません。お嬢様、旦那様にすべてをご報告相手もよろしいのですよ」
「……私を脅すの？」
「脅しているわけではありません。そもそも旦那様への報告は私の義務ですので」
「………」
「はい、賢明な判断です」
私が無言で押し付けたスマホを雅紀は微笑みながら受け取った。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 263人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「嵐」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：iCHiKA
| 作成日時：2020年12月10日 17時
