Episode8 -3 ページ3
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私がこの家に雅紀と二人で暮らしているのは、翔さんとの婚約を受ける代わりに高校の間だけは少しでも自由に暮らしたいという私のわがままをお父様が叶えてくれたからだ。
高校を卒業したら本家できちんと学び、そして翔さんと婚姻する。
それを条件に私が手に入れた、仮初の自由。
いわばこの家は私にとっては広い広い鳥かごのようなもので。
狭い場所にいるよりはよほど自由だけれど、外に出ることは初めから許されていない場所だった。
「いなくなったりしないで、潤くん」
本当に私が伝えたいことは何だろう。
この言葉だけでは不十分な気がして、私は頭の中の言葉たちをひっくり返して探しだす。
私が潤くんに言いたいことは。
潤くんに、伝えなければいけないことは。
「A、俺は、」
そうして見つける。
その言葉を。
たった、一言。
「好き」
「！」
潤くんの切れ長の目が大きく見開かれる。
夜と同じ色をした騎士様の瞳に、泣きそうな顔をした女の子が映っていた。
そう、潤くんはまるで騎士みたいだ。
いつだか和くんが言っていた冗談みたいなそれを、最近の私はよく思い出す。
縛られた場所で生きる私を自由に連れ出して、知らない世界を見せてくれて、危険な時は助けに来てくれる。
翔さんが王子様みたいな人だからこそ余計にそう思う。
私の手を掴んで外れた道を難なく歩く潤くんは、まるで騎士のようだと。
「潤くんが、好きなの」
言葉にしてしまえばしっくりきた。
小梅ちゃんがにんまり顔で笑うのがなぜだか脳裏に浮かぶ。
“いのち短し恋せよ乙女、ですわ”
わざとらしくお嬢様ぶってそう言った小梅ちゃんの言葉が、ひっくり返した頭の中の言葉たちの中で光っていた。
「……A」
「潤くんがいなくなっちゃったら、寂しいよ」
伝えられることはすべて伝えなければいけない気がして。
私はさらに言葉を紡ぐ。
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作者名：iCHiKA
| 作成日時：2020年12月10日 17時
