男装腐女子の魔法科男子校潜入記

26ねむ ページ27

「はー？和が指図しないでよ！和のくせに！」

唐突に人が変わったかのように荒くなった声音に振っていた両手がびくりと震えた。
恐る恐る彼女の表情を覗き見ると、チャーミングだったその眉はきりりと寄せられていてその顔全体で怒りを表していた。
あれ、マジギレな感じ？

「ハイハイ、ユーリくん怒んない怒んない」
「あー！そうやってまた僕を子ども扱いして！」
「はい、ごめんねAくん」

優男並みの笑みを浮かべながら、辰巳先輩がユーリくんから奪った書類を返してくれる。

「あ、いいえ」

苦笑を隠せないままその書類を受け取り、再び空欄を埋めていく。そろそろ生徒会室に戻らないとあの会長にどやされそうだ。
というか、あれだね。ユーリさんはなぜか辰巳先輩を敵視してるけど辰巳先輩はテキトーにあしらってる感じだね。ちょっと可愛いかもしれない。

やがてユーリさんも辰巳先輩も自分のデスクに戻り、書類に向かう。そして風紀委員室に完璧な静寂が訪れる。
万年筆が紙を引っ掻く音。紙を捲る音。珈琲を注ぎに席を立ち、給仕室に向かう足音。戻ってくる足音。そしてまた椅子に腰かける音。
生徒会室でもよく聞きなれたその静寂に、座り心地の悪いパイプ椅子に座っているというのに少しだけリラックスしてしまった。
私、生徒会に所属してからまだ二日しか経ってないのに順応能力高すぎるっぽい。

やがてすべての書類を埋め終えたのは、それから二時間近く経過した後だった。
いや通常ならばそこまでかからないはずなんだけれども、いくつかの情報を理事長と掛け合わせて確認しなきゃいけなくていったん風紀委員室を出て上の階にある理事長室をノックして事情を説明してうんぬんかんぬんをしなければいけなかった。
つまりようやく風紀委員室を出れたのは、夕餉の時刻を通りに過ぎた夜八時のことだった。

「っはー……生徒会室に戻れば溜まりに溜まった書類が出迎えをしてくれる……憂鬱……ねむ」

天井を仰ぎ手のひらで両目を覆った。
地味に精神に来る質問攻めの後にパソコンの画面と資料交互に睨めっこ。うれしくない。全然うれしくない。

「大体なーんで自分から立候補したわけでもないのに生徒会に入らなきゃいけないんだー！」

うがー、と獣みたいな声をあげて両手もあげる。廊下に私しかいないからいいけどほかの人から見たら完全に変な人だ。
だだっ広い廊下をひたすら歩いてようやく生徒会室のどでかいものすごく豪華な扉を押す。
今日帰れるのは何時だろ。

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