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「八年前、君を逃がそうとし鳳仙に捕まった時から君の自由と引き換えに日輪は自由を奪われた。
花魁なんて名ばかりのただの飾りさ、鳳仙は彼女を客寄せパンダとして使う以外はここに閉じ込め、客も取らせず、一切の自由を認めなかった」
そうだよね?と神威はAに問いかけ、彼女はゆっくりとうなずく。
八年前のその事件を、Aは経験していたから。
「ここで腐って死んでいくことを日輪に強いたんだ。…いや、日輪自身がそれを選んだといってもいい。君を守るために。
それでも君はここに来た。日輪が君を守るために長年耐えてきた辛苦も覚悟も無駄にして、危険を冒してまで…」
それでも彼女に会いに来たのだから、君にも君の覚悟があるのだろう?
と神威は晴太に問いかけ、彼はゆっくりと重そうな扉の前へと歩いていく。
「ここから先は、君の仕事だよ」
躊躇したように手を伸ばして、引っ込めて。
Aが晴太の少し震えている手を視界に入れたその時、何年かぶりに聞く彼女の凛とした声が耳に届いた。
「帰りな」
内容は喜べるものではなかったけど。
「ここにあんたの求めるものなんてありゃしないよ、帰りな」
「か…母ちゃん?」
晴太は扉を止めていた大きな木を取っ払って、大きな扉へと声を張り上げる。
必死に扉の向こうの彼女へ呼びかけて、精いっぱい扉を押して。
「オイラだよ、あんたの息子の晴太だよ!」
「私に息子なんていやしないよ。あんたみたいな汚いガキ知りゃしない」
「なんで…何で知ってんだよ」
扉の向こうの彼女にAが呼びかけようとしたその瞬間、晴太がつぶやくように小さな声を上げた。
「なんで汚いガキだって知ってんだよ?…見てたんだろう?おいらがいっつも下からあんたを見てた時、あんたもオイラのこと見てたんだろう?
何度叫んでも答えてくれなかったけど、ホントはオイラを巻き込むまいと必死に声が出そうになるのを我慢してたんだろ?」
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作者名:なんなん | 作成日時:2021年4月30日 17時