とある英雄王と出来損ないの兄の話

Ep.6 -雇われ槍兵と王の遭遇- ページ12

※〜視点などがなければ
基本は三人称視点から話を進めます。



『おいおい、何してんだよオジサン達。
そんなんじゃあ
…折角の酒が不味くなっちまうぞ？』

しゃらり。と
涼やかな音がした。

この荒れた雰囲気にはそぐわない
お気楽な声が響いたと共に、
険悪な雰囲気を作り出していた2人の男性が
その場に倒れた。

誰もがそんな異常事態に驚き
騒ぐのをやめる。


倒れて起きる気配がない2人。
そんな2人を呆れた様な笑い顔で見下ろす
美しい黒髪と紺色の目が印象的な美少年。

後ろには大きな槍を背負っている。
背丈は170くらいか。

彼が肩を揺らして笑うのと同時に、
しゃらり、と涼やかで美しい音がする。
さっき聞こえたのもそれだろう。

貴『はい、いっちょあがりぃ。
手刀だから怪我はさせてねぇからな？』

彼は鼻筋が通った顔でへらりと笑い
手を軽く払う。

貴『全く…酒飲みに来ただけだってのに。
あ、この人達の家族とか知り合いとか居ねぇ？
居たら家まで運んでやってくれな。』

んじゃな〜。
と、手を緩く振りながら
彼はゆったりとした速度で去っていった。

彼が去った後も
暫くは、誰もが驚きと困惑で固まっていた。

すると、野次馬の中から
2人の親族か知り合いと思わしき男性2人が、
彼らに対しての文句を言いながらも
引きずりながら連れていった。

それと同時に
何時もどおりの穏やかなウルクの夜が
緩やかに再開される。

さて、俺も仕事に戻ろう。

そう思って振り返ると、
マントを被った不思議な人物が
路地に入っていった。

…？
一瞬だけだが少しだけ顔が見えた時に
口を歪ませて笑っているように見えたのは
俺の気の所為だろうか。


ーーーー


路地に入り、曲がる。

また曲がる。

立ち止まって、隠れて、また進む。

アサシンの様に気配を消しながら
槍兵の後を素早く追う。

以前彼は
「は、我は何であろうと対応するわ。」
と自負していたが
それは本当であったらしい。

そうとも思えるほどの完璧な身のこなしで
槍兵の後を追う彼が
曲がった先で急に止まる。


その時、雲に隠されていた月が
ゆったりと姿を表し
穏やかな光をバビロニアの土地にもたらした。

そんな優しい光を反射するのは
彼の行く手を阻むように横から突き出された
禍々しくも神々しい槍。

その槍を持つのは
先程の美少年、Aだった。

貴『はいストップ。…中々の芸当だったが、
俺を舐めて貰っちゃ困るな。』

彼が挑発的に口元を歪めると、
相手もにやりと不敵に笑った。

Ep.7 -賢王と槍兵の対面-→←Ep.5 -旅の槍兵と夜のウルク-

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す