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嫌な記憶とは存外深く根付くものである


忘れようとしても中々に忘れられず、むしろもっと深く染み付いてしまう
紙に水がしみ込むようにじわりじわりと確実に胸にしみこんでいく


とても厄介なものだ


「ーー…」


私の顔を優しいとは言い難い風が撫でる
最近は、情緒不安定だと自身考えていたことに嫌悪した
いつから、こんなにネガティブになったのだろうか


何気なく開いていた本を閉じる
何処にでもある恋愛小説だ
失恋した女の末路をかいた物語


意味もなく表紙を指でなぞってみた
自分でも何故こんな本を借りたのだろうと思う
悲劇のヒロインでも気取りたかったのかもしれない


「A先輩」


自分の前方から聞こえた声にドクンと胸が跳ねる
ゆっくりと顔をあげると、黒い髪を風になびかせる彼が立っていた


女よりも白い肌、それこそ本当に雪のようだ
こちらを真っ直ぐ見つめる黒曜石のような瞳が今では一番苦手だ
彼の目は何もかもを見通しそうで、私の胸の内まで知られてしまいそうで怖い


「……久々知くん」


絞り出した声は無様に震えていたが、彼は聞き取ってくれたのだろう
口の端を少し緩め微笑んだ


「こんにちは。ご一緒しても?」


思わず嫌だと言いそうになったが、そうもいかない
下手くそな笑みを浮かべて頷いた
彼だって馬鹿じゃない恐らく気付いただろう
………一体どう思ったのだろう?


久々知は隣に腰を下ろす
肩が触れ合いそうなほど近い距離
自分の半身が石のように硬くなったのを感じた


「今日は、読書日和ですね」

「…そうね」


彼と話すたびに喉がやけに渇きを訴える
今すぐ逃げ出してしまいたいというのは無理なことだろうか
…無理だろうな
仕方なしに、読む気の全くない本を開いた
ページのめくれる音がやけに響く


彼の方をちらりと盗み見ると、彼はニコリと微笑んだ




ーーー…………私がどんな気持ちでいると思っているの?



胸の奥深くに押し込めた汚いものが顔を出す


私は久々知に告白して振られてしまった


そのことは別にいい
仕方がないことだ
勿論傷つきはしたが、彼は丁寧に返事もくれたし満足だった
これから親しく出来ないのは少し寂しいが、自業自得というものだ


だけど


久々知は私が告白する前より甘え、そばにいるようになった
彼が先輩と寄ってくるたびに、悔しく腹ただしく希望を見出してしまう
彼に付けられた傷を、彼によって抉られているようなものだ


滑稽なものだ

い→



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奈桜 - こういうのって凄く好きです! (2017年8月5日 20時) (レス) id: 31f66fea9b (このIDを非表示/違反報告)
なつき(プロフ) - 文章の書き方や話の起承転結が分かりやすくてとても読みやすかったです。面白くて一気に読んじゃいましたww (2016年7月12日 7時) (レス) id: 2afd7876b1 (このIDを非表示/違反報告)
流琉 - 元エオです。名前変えました!この小説、何回読んでも面白いです……! (2016年4月6日 10時) (レス) id: 826410c70b (このIDを非表示/違反報告)
ふりかけカスタード - ヤンデレ最高だぞ…!!!凄くドキドキしました! (2016年4月2日 17時) (レス) id: 6cb576d6d9 (このIDを非表示/違反報告)
荊姫 - エオさん» ありがとうございます! (2016年1月10日 0時) (レス) id: 29760536d5 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:荊姫 | 作成日時:2015年9月26日 16時

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