誰ゆゑに乱れそめにし我ならなくに (ページ48)

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向かいの金城さんの後ろに現れた正門さん。

「おはようございます、今日は午後からだったんですね」

「えっと、はい、仕事で……」

「そうなんですね！すごいなあ」

どれだけ会話を早く切り上げられるかが勝負となる。目の前の金城さんの視線も痛い。

ただ私には最低限やらなきゃいけないこともある。

カバンから小さい紙袋を取り出し、正門さんに渡す。

「あ、あの、返すの遅くなっちゃったんですけど、タオルありがとうございました」

「わざわざ袋に入れてくれたんですか、ご丁寧にありがとうございます。けどお礼するのはこっちの方ですよ」

そう言って彼は鞄から雑貨屋さんで付けてもらえるようなプラスティックの袋を2つ取り出し、こちらに渡してきた。
ん？2つ……？

1個は確実にタオル。これは分かる。

「正門さん……あの、これは？」

「大阪で売ってるお菓子です、コーヒーや紅茶のお供にって売ってたんで。良かったら」

ここまでされるとは聞いてない。

「いやいや！これは明らかに不要な出費ですよね！？いくらですか？お金出すんで」

「お金は大丈夫ですよ、俺がやりたくてやったので」

「いや、流石にやるとしても今回ではないと思います！」

正門さんが頑固なのは何となく分かってるけど、だとしても私が何もしていないのにただで享受する訳にはいかない。
いくら入ってたっけ、とお財布を取り出そうとすると、その手を第二の手が押さえてきた。

「……え？」

「俺がやりたくてやってるんですよ。なので、枡川さんがそれに対して返す必要は無いんです。こないだも言うたと思うんですけど」

なのでそれは仕舞ってください、とその手が柔く力を加えてきた。
力のない私は情けなくされるがまま。

つまり彼の理論でいくと、私が与えたいと思ったら与える。そういうことで良いのか……？
いや明らかに貰いすぎてるよ私。

「……ありがとうございます」

「いえいえ、どう致しまして」

お礼を言うと、それで良いと言わんばかりに満足そうに頷いた。

ただ前回のコーヒーと言い、全然状況としてはフェアでも何でもない。なんなら今のも加わってアンバランスだ。
下手したら、正門さんに貢がせているようにだって見えるだろう。むしろ今の気持ちとしては私が彼に貢ぎたい。……いや、貢ぐって言葉は語弊があるけども。

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