逃げるは恥だが (ページ3)

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辺りはもう暗闇に包まれていた。
　その公園に一本だけ聳え立つ明るい電燈だけが、座り込むそいつを不気味なぐらい白く照らしていた。手に汗が滲む。動悸が激しい。さっきまでの鮮明な映像が頭の中に流れ込んでくる。
　ブルル、ル…と公園の前で止まったバイクはその声を低くして行った。

「…チッ、ほら行け。息はしてるだろ。」

　震える指先でヘルメットを外して、バイクから降りる。ヘルメットは自分が座っていたダンブルシートに置いて、一歩一歩そいつに近づいて行った。
　＿＿間に合わなかった。何もかも遅かった。
　当然だ。逃げたんだから。
　近づくにつれて見えてくるそいつの全貌。半袖短パンから見える手足はほとんど赤くて、痛々しかった。
　それに俺の比べて赤一つない肌を見て、こいつはなんて言うだろう。
　額から滲んだ汗が頬を伝った。震えた唇をようやく開いて、そいつに言う。

「っ…ご、ごめん。俺、おれ…お前、置いて…」

　結果だけ言えば、一発殴られた。
　それと一緒に「絶交だ。お前とはもう関わりたくない。」と吐き捨てられ、そいつはその場から覚束無い足取りで去って行った。
　殴られた左頬の痛みを感じないほど呆然としたまま時間が経っていく。
　一番のダチだった。小一の頃からよく話してて給食の苦手なもんはお互い分け合ったり、昼休みはサッカーボールで遊んで…あん時は窓に当てて怒られたっけ。そんで、一緒に馬鹿して、笑って。そんな思い出ばかりが頭を駆け巡る。自分が失ったものがどれだけ大切なものだったかを自覚しろと叩きつけてくる。

「ダサガキ」

　ポン、どころかバシッ、って音がなりそうなぐらいデカい手に頭を強く強く撫で回される。
　正直首がもげそう。やめて欲しい。という意味を込めて頭を撫でる手を引っ張る。けどその人は手を止めはしなかった。