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「ベア。ここにどんだけお前がいたってムダに要を心配させるだけだろ。行くぞまた濡れて弱ったらどーする、ベアっ！」
「何度連れて帰っても、またここに戻ってくるし…」
「…どうしたの？心読みくん」
翼が何度語りかけてもベアは動くことをせず、それこそ無理矢理に連れ帰っても戻ってきてしまう。
美咲が溜息を吐いたのとほぼ同時に、それまで成り行きを見守っていた心読み君が口を開いた。
「ベアはここで雨に打たれて、自分が弱るのを待ってるんだって。
弱ってもし、このまま自分が動かなくなったら、その魂は要先輩の所に返るかもしんないから。
もしそうなったら要先輩、少しでも元気になるかもしれないって。そのためにここを離れたくないって…」
ベアはそう思っているらしい。自分の命を犠牲に大切な人を守りたいと思うベアの気持ちは分かる。
ベアは誰よりも要が大好きだから、だからそうしたいんだってことも痛いくらいに。でも要はそれを望むだろうか。
「…ったく、バカ言ってんじゃねーよ。誰がお前みたいに命粗末にする奴なんかの魂いるかよ」
ボカンッと鈍い音が雨音の中に混ざって聞こえた。ベアの頭を容赦なく叩いて、翼は呟く。
ベアの首根っこを掴み、再びゴンッと拳をぶつけた。
「生きるために病室で精一杯闘ってる要に対して、それほど酷い仕打ちねーだろ」
苦しそうに声を絞り出す翼の優しさが垣間見えた。翼を筆頭に病院の前から立ち去る皆の姿をベアが立っていた位置から眺めるA。
去っていく翼の後ろ姿を見ながら、Aは鉛色の空に溜息を溶け込ませた。
「ほう…ではあくまで、鳴海先生は腕が完治した理由は白崎Aの“アリス”のせいではなく、自身の治癒能力とアリス治療の結果と言い張るんですね」
その頃、本部の一室にて初等部校長は部下の報告を聞き入っていた。初等部校長は口を薄く三日月を浮かべる。
「あの男も思ったより往生際の悪い…」
まるで鳴海の見栄透いた嘘などお見通しと言うかのように淡く笑みを浮かべると、初等部校長は淡々と告げた。
「穏便に白崎Aをこちら側に招いてやろうと思ったが、それならそれで仕方ない。
おぞましい顔で静かに告げる初等部校長に、側近の一人が
手筈を整えようと持ち場を離れる。
「仕方ない………」
帰っていく側近の後ろ姿を見ながら、初等部校長は恐ろしげに呟いた。
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作者名：未来 | 作成日時：2023年11月1日 20時
