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「………棗は、ズルいと、思う…」
「……？」
冷たい言葉を発したと思ったら次の瞬間には優しくて。全然、意味が分からない。
「…あたしが、あたしはこんなに心配してるのに、棗は何も気づいてくれない…」
信じるって決めた。決めたけど、棗が話すまで待つって決めた、けど。
だけど、それがこんなにも苦しいなんて。
「棗の事、好きなのに、大好きなのに……っ
時々、棗の事が憎くて、憎くて、堪らなくなる…」
どうしてかな。こんなに大好きで大好きで仕方なくて、毎日毎日、棗の事ばっか考えてる。それが凄く苦しい。
「…あたし、自分の感情が分からなくなる…棗はあたしの事、理解してて、あたしの気持ち分かってて、それであんな行動してるのかな」
優しくて暖かい手で抱き締めたてくれたり、愛しい人に向けるような瞳を向けてくれたり。
感情を溢れ出すようなキスをしてくれた……
「一つでも、棗の本当の気持ちが分かったら、こんなに苦しい想いをしなくて、済むのかな…」
ずっと思っていた。もし今、棗があたしにたった一言、あたしの気持ちを繋ぎ止めてくれるような。
「…棗といればいるほど、好きって想いが溢れ出して、切なくて、苦しくて、でも、側にいたくて。棗はあたしの事どう思ってるのかな」
棗に感じる不安や胸騒ぎを吹き飛ばしてくれるような、そんな揺るがない強い一言を言ってくれたら。
「あたし、棗の気持ちが知りたい。１つでいい、１つでいいから、棗の本当の気持ちが知りたいよ」
そしたらあたしは、あたしは絶対に何が起こっても前を向ける、どんな逆境にも負けない、本気でそう思うよ。
「…こんな事、言ってごめん。
ベア…聞いてくれてありがとう」
そう言った時、棗の身体をしたベアがあたしの手に自分の手を乗せた。その温もりに、少しだけ不安が過った。
閉じ込めていた微かな不安が、委員長から話を聞いて、少しずつ大きくなっていく。
「棗、どこ行ったのかな…
棗は…どこに行くつもりなのかな。
どこに行ってしまうつもりなのかな、棗………
…あたしや流架や…皆の前から、
このままいなくなるつもりなのかな…っ………」
棗の頬に触れると、ぴくりと動いたベアは何も言わず、ぎゅうっとあたしを抱きしめてくれた。
それは、体育祭の時のように…強い力で。
「…ねぇ、もしかして…」
その時、言いかけた言葉は叫び声によりかき消された。
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作者名：未来 | 作成日時：2023年11月1日 20時
