769 ページ32
さっきから一言も話さないし……この目つきはベアに見えなくもない。
ベアは今、人の体になった事を楽しんでるって言ってたし、すぐ逃げる可能性も…ここで捕まえておかないと。
いざっていう時に使って、と蛍に手渡されていた手錠を取り出して、棗ベアの手に付ける。
これなら逃げられる可能性は少ないはず。後は皆の所に連れて行くだけ。
もう片方の手錠を手で掴んで、そのまま集合場所へと歩こうとすると後ろからグンッと引っ張られた。
勢いのままベンチにではなく、棗ベアの膝の上に座ってしまった。あれ…この人ベアだよね？
「…ベア…で、いいんだよね？」
反応がない。棗なら、は？ふざけてんのか、とか言ってくるし…これは肯定ってこと…？ベアは喋れないし…
だとしたら、ベアはいつも誰かの膝に乗る側だから誰かを乗せてみたかった、とか？そういう心境で、今のこの状況なのかな？
でも委員長から話を聞いてしまったから、棗の体で上にいるのは申し訳ない。そう思って膝の上から降りようとすると、今度は肩を掴まれた。
「…降りるなってこと？」
流れるのは沈黙だった。仕方ない。こうなったら、とことんベアに付き合おう。
そう決めて、少し大人っぽくなった棗の顔をじっと見つめた。見つめている間も沈黙だけど。
「久しぶりだね…ベアと２人きりになるの…
最近は忙しくて、あんまり会いに行けなかったから…」
あたしは沈黙を破った。
一緒に要くんとクッキー食べてた日が懐かしい。でも…今日のベアは、コクコクと首を振ってくれない。
「…棗の中にベアが入っても、特に変わらないね」
ベアから目を逸らして何もない外の光景を眺める。口にしたのは、素直な感想。
「あたし、気がつかなかったけど、棗とベアって似た者同士なんだね…」
目つきが悪くて人に誤解されやすい所とか、手が出る所とか、無口な所も…ベアは話さないけど。
「…誤解されやすい所とかそっくり……
本当は誰よりも優しくて、皆の事を考えてる所も…」
本当、そっくりな所が沢山ある。こんな事、棗本人には言えないから、あたしとベアの秘密だ。
「ねえ、ベア…今思ったんだけど、ベアとあたしだけの秘密って沢山あるね」
秘密って言えば、昔からベアには誰にも言えない事とか聞いてもらってた。
「また、あたし達だけの秘密にして欲しいことがあるんだけど、話しても良い？」
ベアをチラリと見たら目が合って、それをあたしは肯定だと受け取った。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 37人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：未来 | 作成日時：2023年11月1日 20時
