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「……ところで、呪いを解くというのはなんだ。強制解呪の術式など聞いたことがないぞ」
漏瑚はAを睨めつけるように見ながら、夏油へとそう聞いた。
さっきまでは驚いたように俺の事を見ていたが、もうどうでもよくなったらしい。仲間の呪霊の関心は、別のものへと向いていた。
「彼女の術式じゃ呪霊を祓うことは出来ないけど、代わりにこの世の呪い全てを解くことができるんだよ。そう、例えば……宿儺の封印とか、ね」
「!!」
『おい夏油!!コイツをどうにかしろ!!』
「あっ、待ってよー!そんなに夏油ばっか呼んじゃって、俺嫉妬しちゃうな」
『黙れ呪霊が!!気色悪い!!』
陀艮の領域の砂浜で、俺から逃げ回るA。
なるほどな。恋愛小説や映画で砂浜を走るシーンは、こういうものだったのか。
不意に後ろから肩に手を置かれ、進行を止められる。振り向くと、俺の肩に手を乗せていたのは夏油だった。
「それくらいにしておいてくれ、真人。彼女に逃げられたら困るだろう」
「なら心配しないでよ、俺が捕まえておくからさ」
「それじゃあ意味が無い。彼女が術式を使ってくれないという状況になったらどうするつもりだい?」
回りくどいなあ、と思いつつも、確かにその通りだ。
俺は渋々追いかけるのをやめて、さっきまで夏油が座っていたビーチチェアに腰掛けた。
『夏油傑。手網はしっかり握っておけ。お前の犬だろ』
「彼等は犬じゃないよ。あまりそう言う発言は控えた方がいい。彼等、ああ見えてかなり気が短いから」
何を話しているのかは聞こえないけれど、Aがこちらを一瞥してきたので、微笑んで手を振っておいた。
振り返してはくれなかったけど、まだ時間はあるんだ。じっくり距離を詰めていけばいい。
新しい愉しみが出来た俺の口元は、緩やかに弧を描いた。
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作成日時:2022年3月4日 0時