33話 遠吠え(4) ページ8
マカナックルさんがアンケシさんの髪を撫でながら呟く。
マカナックル「アンケシはな。不思議な力を生まれつき持っていたものだから樺太でもここでもあまりいい思いはしていないらしい」
「しょっちゅう他のコタンの連中に連れ去られそうになったりとか・・・おまけに綺麗な顔立ちをしているから揉め事は度々起きていた・・・」
杉元「・・・・・・」
マカナックルさんが眠っているオソマを持ち上げて微笑んだ。
マカナックル「いつでも味方になってくれていた父が死んでレタラまでいなくなった」
「そんなことがあってから二人は笑顔を見せなくなったが最近はずいぶんと明るくなった」
「杉元さんとAと山にいるのが楽しいんだろう」
小さな息を漏らすふたりの少女の顔を俺と杉元は静かに見つめていた。
お婆ちゃんが俺と杉元の肩をトントンと叩いた。
そして・・・・。
フチ「スギモト ニシパ マツサキ ニシパ」
「アシリパ アンケシ アナクネ クエヤム ぺ ネ」
「ネイタ パクノ トゥラノ アン ワ ウンコレ ヤン」
俺と杉元の手を取りそう言った。
俺は言葉が分かるけど杉元は分からない。
それでも杉元はお婆ちゃんの前で微笑んでみせた。
杉元「・・・・・・・・・わかったよ。
お婆ちゃん」
「アシリパさんとアンケシさんはお婆ちゃんに愛されてるんだな。村のみんなにも」
ーー
杉元「A。眠らないのか?」
A『・・・眠らない』
杉元が囲炉裏の火を眺める。
杉元「・・・・なんで」
A『・・・・今眠ったら。杉元がいなくなりそうだから』
杉元が「お見通しってわけか」と小さく笑った。
杉元「お前は身を隠して全てが落ち着くまで安全な場所に――」
A『杉元には約束を守って貰わなきゃ困る』
杉元が俺を見つめた。
A『記憶を取り戻す手伝いをしてくれるんだろ。俺は杉元についていくよ』
杉元がフッと微笑んだ。
そして、子熊に触れようと伸ばした手を引っ込めてアシリパとアンケシさんを見下ろした。
俺は荷物をまとめて杉元に渡す。
杉元「元気でな」
俺と杉元は吹雪きの中、コタンを後にした。
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作者名:白文鳥 | 作成日時:2020年9月27日 22時