120話 優しい手(2) ページ3
アンケシ「どうだ?何か感じないか?」
A『アンケシさんの・・・体温くらいしか感じないよ』
先程まで川に浸かっていたせいか、じんわりと指先から暖まる。
アンケシさんは満足そうに微笑んだ。
アンケシ「悪人は何も感じないそうだ」
A『・・・・え?』
アンケシ「こうやって手を重ねても、包み込まれても、何も感じない」
「悪人は人の温もりに気づけないんだ。この【優しい温度】を知らないから」
アンケシさんがニッコリと微笑みかけてくる。
アンケシ「Aは私の体温を感じることが出来た。だから悪人じゃない」
A『でも・・・それだけじゃ――』
アンケシ「私も貴方の体温が伝わってくる」
アンケシさんが俺を真っ直ぐ見つめた。
アンケシ「貴方の体温が指先から伝わって、冷えてきた身体を温めてくれている」
A『・・・・・・』
アンケシ「優しい人の手だ」
「この手の人間に
この子を支えようとしたつもりがまた、支えられてしまった。
俺は小さく笑いかけることしか出来なかった。
奪ってばかりの手を優しい手だと言うのは・・・この子しか居ないだろう。
俺は小さな手を強く握った。
A『・・・やっぱりアンケシさんは凄い』
アンケシ「うん?」
A『俺には・・・アンタが眩しいよ』
アンケシさんが頬を少し赤くして「へへッ」と笑った。
この笑顔を守る為には・・・俺は嘘をつくしか無いようだ。
時が来るまで、黙っていよう。
俺はこの子の泣き顔だけは見たくない。
ただ、突き止めなければならない疑問はまだ残っている。
キロランケは事件のことを知っていると言っておいてアンケシさんの父親は死んだと証言していた。
あれは嘘だったのか?
・・・でも白石も土方も牛山も――これといった反応を見せていない。
囚人に聞かされていない秘密があるのか。
のっぺらぼうもアンケシさんの父親は死んだと思い込んで居たのか。
それとも俺に揺さぶりをかける為の親父の嘘なのか・・・。
アンケシ「そろそろ戻ろう。みんな待ってる」
A『・・・うん』
俺とアンケシさんは川岸から離れ森を歩く。
少し先を歩いていたアンケシさんがこちらを振り返り、微笑んだ。
夕日に照らされて、彼女の髪が淡い優しい色を放った。
優しい君を守れるのなら、この手が汚れるのも・・・もう怖くない。
そう思った。
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作者名:白文鳥 | 作成日時:2020年12月13日 20時