七歩蛇 壱 ページ18
「Aちゃん、ちょっとおいで」
学校終わりの夕方、Aがいつものように住宅街で新聞配達をしていると、ひょこりと隣の家の玄関から顔を覗かせた老婆がAを呼び止めた。
『サチコさん。どうしたの、何か用？』
「いえね、丁度Aちゃんが来る頃だと思っていたから、お味噌汁を作ったのよ。大根のお味噌汁。昔から好きだったでしょう？」
『大根のお味噌汁…！だいすき…！！』
「ふふ、今からタッパーに入れて持ってくるわ。ちょっと待っててね」
『うんっ』
くすくすと嬉しげに笑いながら家の中へと入っていった老婆の背を見送りながら、Aはそわそわと落ち着かない様子で新聞紙をぎゅうと抱き締めた。
Aがサチコと呼んだ先程の老婆は、Aが施設に入るずっと前からこの地域に住んでいるという。夫を早くに亡くし、子供も孫もいない一人きりの生活が長かったため、Aを初めとした施設の子供たちをまるで本物の孫のように可愛がっている。
サチコの料理の腕は相当なもので、特に彼女の畑で採れた大根を使った味噌汁はAの大好物であった。
「はいおまたせ。冷たいのを入れといたから、あっためてから皆で食べてね」
『分かった、ありがとう。食べ終わったらタッパー返しに来るね』
「あ、待って待って。これもね、Aちゃんに渡そうと思って」
再びAを呼び止めたサチコは、「よいしょ」と大きな袋を玄関から引っ張り出してくる。一人に渡すにしては大きすぎる袋に少々驚いたAだが、その中にたくさんの駄菓子が入っているのを見ると途端に目を輝かせた。
「向こうの駄菓子屋さんで安売りしてたから、つい買っちゃったのよ。Aちゃんたちにあげたらきっと喜ぶわと思ってね」
『うん、嬉しい…！本当にありがとうサチコさん…！』
普段こそ中学生とは思えないほど落ち着いているが、今回ばかりは年相応に喜んでいるAを見てサチコはくすりと笑う。ありがとう、また来るね、と何度も繰り返しながら遠ざかっていくAの背中を、サチコは慈愛に満ちた目で見つめていた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1034人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「wrwrd」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
重(プロフ) - たむさん» たむ様、コメントありがとうございます。ご心配をおかけして申し訳ございません。私生活の方が忙しくなり、本当に長い間お待たせしてしまいました…。今年になってようやっと落ち着いてきましたので、ぼちぼち更新を再開していきたいと思っております！頑張ります！ (1月30日 0時) (
レス) @page50 id: 8427fb6990 (このIDを非表示/違反報告)
たむ(プロフ) - とても好きです。終わってしまったのがとても悲しいですが更新がされることを待とうと思います。お体に何事もなければ良いのですが、体調が優れないことがないようお祈りしております。 (1月2日 16時) (レス) @page45 id: eba900a9f0 (このIDを非表示/違反報告)
重(プロフ) - 缶コーヒーさん» 缶コーヒー様、コメントありがとうございます。滅茶苦茶面白いとのお言葉、本当に嬉しい限りです…！今後とも楽しんで頂けるよう精進していきますので、何卒よろしくお願いいたします。 (2020年12月15日 17時) (レス) id: ddd711f9d7 (このIDを非表示/違反報告)
缶コーヒー - 初めまして、缶コーヒーと申します。滅茶苦茶面白いです！まだ否ログイン者なのですが、更新されたらまた来ます！ (2020年12月15日 17時) (レス) id: b386527986 (このIDを非表示/違反報告)
重(プロフ) - H2Oさん» H2O様、コメントありがとうございます。本当に大変お待たせ致しました…！私自身、もう今さら更新しても…と不安になったりもしたのですが、H2O様がこうしてまた来てくださったと知れてとても嬉しく、安心しました。今後とも気長にお待ち頂けると幸いです…！ (2020年12月13日 16時) (レス) id: ddd711f9d7 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：重 | 作成日時：2019年11月1日 6時
