*Only winner* (ページ37)

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「あー……緊張してきた」

「いや、なんで？」

「相手、Aやぞ。散々顔合わせてるだろ」

「Aさんやから！緊張すんねん！」

「うるっさ」

約束の時間よりも15分ほど早めに店に着いた俺らは、龍友さんが予約してくれた個室で2人の到着を待っていた。

「はあ……ほんまに来るんやんな……」

「そりゃ来るでしょ」

「何話したらええんやろ……」

「向こうも同じこと言ってる気がするわ」

「むしろAちゃんのほうが何話したらいいのか困ってそう」

「それな」

俺がガチガチに緊張している隣で呑気にヘラヘラ笑っている同い年2人。人の気も知らないで……。

俺がAさんと初めて顔を合わせたのはSURVIVALのリハーサル。

男集団の中に1人佇む女の子。
ただでさえ華奢なのに、筋骨隆々な男たちに囲まれると余計に小さく見えて、あんな小さいとステージで埋もれそう、なんて思っていた。

それが勝手な偏見だと思い知らされたのは、ほんの数分後のことだったのだけど。

「海青、ほんとAちゃん好きだよね」

「暇さえあれば動画見よるからな」

「いやあ、だって……凄いやんあの人。俺、Aさんの歌ほんまに好きやねん。ビジュアルも好きやし、声も、ダンスも……もう全部好き」

「ファンか」

「ファンや！」

俺の勢いの良すぎる返事にケタケタと笑う翔平。
その隣でコップの水を飲んだ樹が、俺に素朴な疑問を投げかけてきた。

「てか、ずっと気になってたんだけどさ」

「なに？」

「なんで海青、『Aさん』なの？芸歴は先輩だけど、Aちゃん年下じゃん」

「……いや、なんか……恐れ多くて……」

初対面のあの日。
曲が流れて、ボーカルが歌い出す。その瞬間、圧倒された。
全然、まったく、埋もれてなんかいない。むしろ、ダントツで光り輝いている。俺にはそう見えた。

あの日から、俺にとって彼女は憧れの存在になった。凛としていてブレないカッコよさを持つ彼女のことを心から尊敬している。
だから、気安く名前を呼び捨てにするなど出来ない。

「……ガチやな」

「俺はいつだってガチや！」

「分かった分かった、本気で憧れてんだな」

「気持ちは分かる。俺も、サポメンでリハした時ビビったもん。曲かかった瞬間に表情変わるよね」

「あー、分かるわ。一気にオーラ出るよな」

樹と翔平の昔話を静かに聞いていたら、いきなり個室の扉がノックされた。

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