カマが愛を背負ってくる【JW】

【9】きっとずっと信じたかった　Side:Hamako ページ39

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はじめて違和感を持ったのは、小学生のときだった。
なんていうと、物語の始まり感があっていいわねとジュンは笑う。

神様が外見と中身の性を間違えてしまうことが、今よりもっと認められなかった昔
ジュンとアタシは小学校3年生の春に出会った。



「自分のことをたかちゃんと呼ぶのはもうやめなさい」



母親からそうたしなめるように、半分呆れたように困ったように
そう言われて首をかしげたときのことを、目を瞑ると思い出す。

だって教室の中にいる女の子たちはみんなみんなそうやって呼ぶのに
どうして自分はだめだと何度も言われるのか、本気で意味がわからなかった。

当時は9歳、まだ誕生日が来ていなかったから8歳と4ヶ月と数日。
わかるわけなんてなくて、でも今思えばそんな年齢で自分が周りと違うんだって
思わざるを得なくなる瞬間がやってきていたんだと
今でも無い胸の奥が、痛いというよりぎゅんぎゅんに締め付けられるような気分になった。


「はまちゃんってお花がすきなん」


隣のクラスのなかまさんといえば、男の子なのに女の子みたいな容姿をしていると
よく男子たちにからかわれては、先生たちによって諌められているのをみていたから。

近所の公園の花壇にしゃがみこんで、じっと小さな赤紫の色をした花を見つめていたアタシに
そう話しかけてきたとき、しりもちをついたほど驚いた。

大人になってから「鈴が鳴るような声」というたとえがあることを知った(ジュンから聞いた)けど、当時のジュンはまさにそれだった。

女の子みたい、と揶揄されることが心底うらやましいと思っていたアタシは
それでも両親に半ば強制される「男の子」としての人生を苦しみながらも生きていて。

だから近所の静かで遊具もなく、奥まったところに花壇がぽつんとあるような場所でしか
自分が自分でいても許される場所がなかったというのが現実だった。

そんなアタシに平然と声をかけたジュンは、初対面だというのにアタシを
愛称のはまちゃんと呼び、しりもちをついたアタシの傍らに小さくしゃがみこむ。



「花、すきなんや」
「うん」
「いっしょやね、じゅんもすき」
「じゅん…」
「うち、なかまじゅんた。じゅん」
「はまだ、たかひろ。」
「知ってる。だからたかちゃんなんやろ？」
「うぇ、なんで」
「うちといっしょやとおもったから」
「え？」
「はまちゃんとうち、にてるおもうねん」



今も変わらないずけずけとしたその言い草に
当時のアタシは完全に負けてしまっていたんだ。



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