「愛してない」 (ページ31)

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案内された部屋には、もうほとんど家具が設置されていた。

部屋の角に置かれている机と椅子、薄ピンク色した布団が置かれたシングルベッド、クローゼット、本棚、可愛い人形、クッション。

全部全部、昔からそこにあったように。

大切に、そのままに、置かれていた。

『……ここ、』

「……適当に、使っていいから」

岩本さんはわたしの目も見ないでそう言い捨てた。

その冷たい言い方に少しだけ怖くなる。

『で、でも』

「いいから。ずっと使ってない部屋だったから家具とかそのままなんだよ」

どうして？なんて、きっと聞いちゃいけない事だ。

黙って頷くと、岩本さんはリビングに戻って行った。

色々聞きたい事があったけど、怖くて何も聞けやしない。

どうして……どうして、わたしにこんなに良くしてくれるんだろう。

あんな知り合い方をしてどうやったら一緒に住もうと決意出来るのか。

わたしには全く理解出来ない。

そりゃわたしは嬉しいけど。

でも岩本さんに何のメリットがあるの？

……面白がっているとか？からかってる？気まぐれ？

どれもピンと来ない。

そんな一時の感情でこんな事する人ではないと思うし。

『わっかんない…』

知っていい事なのか、どうなのか。

この生活は、岩本さんの気まぐれで終わるのだろうか。

不安でいっぱいだった。

岩本さんはわたしが自立するまでと言った。

自立するまで居させてくれる保証がどこにある？

わたし、あの人に捨てられたら最後だ。

きっと、確実に、死ぬと思う。

『……』

不意に目についた、クローゼットへと手を伸ばす。

ゆっくりと戸を引けば、中にはたくさんの女物の服が掛けてあった。

驚きはしなかった。

何となく、気付いていたから。

岩本さんが前に貸してくれた、服。

この部屋。

全部全部、もうここに居ない誰かの物。

岩本さんの、彼女？

『……わたしの趣味じゃないな、』

この人絶対お嬢様だったんだ。

高価そうなワンピース、コート、ブーツ、鞄。

何なんだこれは。

わたしが普段買うような服とは大違いで、少し怖くなった。