「愛してない」 (ページ30)

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アパートの管理人さんに事情を話すと、色々ある手続きは全部一緒に手伝ってくれた。

親に連絡はしたのかと、度々言われたけどそこはうまく流しておいた。

それから2週間後の、よく晴れた日曜日。

ずっと長い間居場所だったここから、わたしは出て行く。

何だか不思議な気分だったけど、一番、安心が大きかったかもしれない。

無理矢理連れて来られた、この場所。

冷たい空気。

泣いても叫んでも、思い知らされる“独り”。

振り返っても、あまり感動した気持ちだとかは湧き上がって来なかった。

それが逆に自分らしいと思って、管理人さんに手を振ってアパートを後にした。

二週間ぶりに岩本さんに会いに行く。

今日は休みだから、マンションの前で待っていてくれると言ってくれた。

待っていてくれる。

それだけで足取りも軽くなる。

荷物をまとめたバックはとても軽い。

死んでやると決意したこないだに、色々と捨てたからだ。

踏み切りを渡って、しばらく真っ直ぐ歩いた先にある高層マンション。

道を覚えてしまった自分が何だかくすぐったい。

マンションの外にはダルそうに煙草を吹かした岩本さんが立っていた。

煙草を吸う仕草が似合い過ぎているなぁなんて、思わず笑ってしまう。

「…荷物少なすぎ。旅行じゃねーんだぞ。」

『ですよね』

困ったように笑うと、コツンと額を小突かれた。

嬉しくて小突かれた額に手を添える。

「お前の部屋のスペース空けといたから」

『え！いや！わたしどこでも寝ます！』

「どこでもって…」

『ソファでもキッチンでも何でも！』

「バカ。お前一応女の子だろ。」

振り向き様にそう言われて目を丸くする。

当たり前みたいなその態度がわたしにとってどれだけ嬉しい事なのか、岩本さんは分かっていないのだ。

二週間前と何ら変わりない生活感の全く感じられないリビング。

綺麗なままのキッチン。

この人は本当にここで生活しているのか、前にも思った疑問だ。