「愛してない」 (ページ26)

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半同棲気味だった翔太は、もうここには戻って来ないという意味で荷物をまとめた。

荷物をまとめてみれば、鞄一つで収まってしまうようなそんなものに、思わず笑ってしまった。

「…いつかさ」

翔太が、ゆっくりと口を開く。

わたしは、その言葉を取り零さないように脳に刻み込む。

「…いつか、Aと純粋に、笑い合える日が来ればって…そんな事想ってる。そんな未来、来る？」

『…そんなの、』

そんなの、すぐだよ。

そう言えば、翔太は幸せそうに笑った。

翔太は親戚の人と、周りの人と、もう一回やり直してみるって。

そう言っていた。

これが、わたし達の始まりになる。

そうやって始まって、きっと、幸せに終わりを告げるんだろう。

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岩本さんのマンションのエントランス前で待つ。

エントランスには入れるけれど、このマンションの住人ではないから躊躇いがある。

今朝と同様その場に座り込んでいると、後ろから聞き慣れてしまった声がする。

「何してんだよ」

ダルそうな格好で出てきたその人に、わたしはいつから安らぎを感じるようになったんだろう。

岩本さんはわたしの腕を引っ張り、部屋に上がるよう促した。

少し怯えるわたしを見て、やっぱり意地悪そうに笑ってた。

相変わらず、大きくて綺麗な部屋に圧倒されながらソファに座る。

岩本さんは廊下に続く扉に背を凭れさせている。

『……わたしは、もう、きっと…逃げません』

唇が震える。

『もしかしたらまた、死にたくなるかもしれないし…わたしは弱いから多分すぐ挫けちゃうけど、』

「……」

『翔太が、頑張るって、言ってくれたから。』

それだけで、きっとわたしも頑張れる。

それは、根拠のない確信だった。

『……だから、もし、挫けちゃいそうになって、どうにもなんない時があったら……』

「……」

『ここ、来ても、いいですか？』

黙って話しを聞いてもらうだけでいい。

こうやって向かい合わせに座ってくれるだけでいい。

“誰か”が居るだけで人って、不思議と強くなれる。