『 Fly so high!! 』

Limit 38. ページ24

『どうして、こんな物がここに……』



信じられないと言わんばかりの彼女の言葉は、
まるで今目の前にある資料の存在を知っていたかのようなものだった。

ただ、ショックを受けたかのような声色を聞いて翔達は思わず顔を見合わせる。
──瞬間、Aがその場で足元から崩れ落ちて地べたに座り込んでしまった。



『……A!?』



驚いた翔が声を上げる中、傍らに立っていた白羽が慌てて身体を支えて
どうにか、近くの椅子に座らせる。



『大丈夫……?』



椅子に座らせた後、しゃがみ込んだ白羽がAを覗き込んだ時には
彼女は目元から止め処なく涙を流していた。

あの資料に対して何か思い入れがあったのだろうか。
明確な理由がわからない彼らは困惑してしまったが──。



『い、一体どこで、これを……』



僅かに発せられた、震えた声で問いかけられたのを
しっかりと聞き取ったのは、傍に居た白羽だけだった。

だからこの後に彼女の問いに答えたのも、自ずと彼に限られる。



『……実は、これは僕達がずっと前に、ある人から譲り受けた物なんだ』



言葉を選ぶように、遠回しにそう告げた白羽。
彼が答える声を聞いた事で、翔や凪斗にも彼女が問いかけた内容を予測出来た。

そして三人の脳裏には同じく、一人の人物の姿が過り──



『…………“凛空(ﾘｸ)”?』



絞り出すようにして放たれた何者かの名前は
白羽だけでなく、翔や凪斗の耳にも届いた。

その名は、彼らが脳裏に思い浮かべていた人物が持つ名と一致する。



『──し、知っているのかい?』



素っ頓狂な声を上げてしまった白羽や翔は目を見開いて驚いていたが、この時から
目元を覆い隠していた凪斗の様子は、先ほどとあまり変わりないようだった。

──それが彼らしいと言えば、彼らしかったのだが。



『当たり前でしょ、それはっ……──それは、』



ようやく、何とか顔を上げたAの頬が涙で濡れている。
彼女の視線の先には、たった二枚の、それでも大きな紙を使用された資料。



『私の、お兄さんの書いた資料だっていうのに!』



……資料がAに理解できる内容の物であるか否やを判断する前に、
彼女にとっては既に見覚えのある物だった。

彼らからすれば驚きの事実だろうが、
Aからすればこの資料がここに置かれていた事が信じられない事なのだ。

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