107話:私の本 ページ11
「待たせたな」
「もそもそ」
……ホントに待ってた。
新しい私の部屋だという一室の前には本当に中在家さんが立っていて、私はパチパチと目をまたたかせた。
「こ、こんばんは」
「もそ」
昼間に散々な物言いをしたばかりというのもあって、なんだかものすごく気まずい。
ここまで繋いでいた手をパッと離し、違和感のない程度に仙蔵さんの影に隠れる。
「A、怖くないぞ。こいつは怪しい奴じゃない。長次だ」
「別に、怖がってるわけじゃありません」
肩越しに私を見て、小さい子を宥めるように言った仙蔵さんに、私はむっと頬を膨らませた。
無意識に握ってしまっていた仙蔵さんの服の裾を、何事もなかったようにそっと離す。
そんな私を呆れたような、けれど微かに優しさの混じる目で見下ろした後、仙蔵さんは中在家さんを指差した。
「長次が渡したいものがあるらしい」
「渡したいもの、ですか?」
……何だろう。
そろそろと仙蔵さんの背中から出てきた私に、中在家さんが静かに差し出す。
……これは。
「私の、本」
ページの間に紙がたくさん挟まれているけれど、その装丁は間違いなく私の本だった。
あんなにゴワゴワになっていたページはきっちりと皺が伸ばされていて、すっかり元通りに見える。
「ひとまず応急処置は終わった。あと一週間ほどは陰干しにしておく必要があるが、その後はまた読めるようになる」
「えっと、あの」
私の戸惑う声を非難の意味で捉えたらしい中在家さんが、微かに眉尻を下げた。
「私の部屋にこれ以上置いておけば、小平太が触りかねないのだ」
「ありがとうございました!」
いけどんマラソン体育委員長に大切な本を触らせるわけにはいかない、と私の本能が告げている。
本をめちゃめちゃにされる前に私に返す判断をした中在家さんには、感謝してもしきれないだろう。
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真白(プロフ) - わそ姉大好きリスナーさん» ありがとうございます!ホントですか?それは光栄です。天女様系には素敵な作品も多くあるので、私の作品をきっかけに他の方のもいけるようになってくださったら嬉しいです(*´∀`*) (2023年1月29日 18時) (レス) id: f022b78e83 (このIDを非表示/違反報告)
わそ姉大好きリスナー - 面白かったです!自分は天女様系が苦手でしたけど、真白様のこの天女様系はなんかいけました!((^^ω)更新ファイト!!!!です(^^ω) (2023年1月25日 10時) (レス) @page23 id: 888b3d648c (このIDを非表示/違反報告)
真白(プロフ) - 千颯さん» わあああ!ありがたいお言葉ありがとうございます!!!私の更新が千颯さんの生き甲斐になっていたですって……?これからも気合いを入れて更新していきますので、楽しみに待っていてくださいませ! (2022年12月18日 18時) (レス) id: f022b78e83 (このIDを非表示/違反報告)
千颯 - 毎週投稿を楽しみに生きてます( これからも作者さんのペースで頑張ってください!応援してます! (2022年12月11日 11時) (レス) @page18 id: ecd2d0aa76 (このIDを非表示/違反報告)
雪(プロフ) - れいらさん» この更新スピードは、れいらさんを始めとする読者の皆さんのおかげなんですよ!ご期待にお応えできるよう、これからも頑張りますね♪ (2022年10月22日 20時) (レス) id: f022b78e83 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:真白 | 作成日時:2022年10月22日 13時