【忍たま】本が読みたい私のそれどころではない室町生活

42話:知らない ページ44

「……教えてくれなかったのは、そっちじゃないですか」



俯いて、小さく呟いたその声は、彼には届かなかったらしい。


眉間に皺を寄せて首を傾げる仙蔵さんに、私はぐぐっと詰め寄った。



「自己紹介もしていただいていないのに、どのようにして苗字で呼べと？ 名前で呼ばれたくないのなら、貴方がどなたなのか教えてください」



本当に、本当に心底驚いたように、仙蔵さんが目をまたたく。

まるで私が自分のことを知らないだなんて、一ミリも考えたことがなかったかのように。



……あぁ、まだ天女サマと同じだと思われていたのかな。



天女だとは思っていないと言っているけれど、それが事実にせよ嘘にせよ、無意識のうちに仙蔵さんは私を天女達と重ねて考えているらしい。

最早それは偏見に近いものだし、それに対してとやかく言っても仕方がないことはわかる。

わかるのだけれど、仙蔵さんなら、と期待していた分どうしても寂しさが大きい。



「君は、私のことを知らないのか？」

「貴方のことも、あの時一緒にいた五人もどなたのことも存じ上げません。何度も申し上げているように、私は天女様じゃないんです。お願いですから、前の人達と同じようには考えないでください」



取られた手をぎゅっと握り返してそう言うと、仙蔵さんが怯んだように一歩下がる。

逃げるなよ、という意を込めて距離を詰めると、困ったような顔で軽く手を叩かれた。



「君の言い分はわかった。わかったから一度離れろ」

「へ？ あ、すみません」



気づけば目の前に仙蔵さんの顔がある。

前世でどんな徳を積めばこうなるのだろうというほどに美しく整ったその顔にどぎまぎしつつ、私はパッと手を離した。

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