20話:不審者 ページ22
「はぁ……。今までの天女サマ達って、よくこんな部屋で生活できたよね。ほんっとありえない」
ぶつぶつ言いながら、私は戸を全開にする。
この部屋に今一番必要なのは換気だ。
こんな強烈な臭いのする部屋に、本なんて入れられるわけがない。
……全ては本のため。本のためなんだ!
できれば染み付いてしまっている臭いも消し去りたいところである。
現代の消臭剤が既に恋しくなってきた。
「そうだ、押し入れも開けなきゃ」
この感じだと押し入れの中もとんでもない臭いなのだろうな、と思いながら、私は上段の戸をガラガラッと開ける。
「え」
中には、驚いたように目を見開いた男が三人。
ぎゅうぎゅう詰めで固まっていた。
「…………」
「…………」
「…………」
気まずい沈黙が降りる。
数秒迷った後に、耐えきれなくなった私はそっと戸を閉めた。
「……いや、待って待って、閉めないで!?」
ガラッ、と再び戸が開けられようとする気配に、私は必死になって戸を押さえる。
「いやぁっ! ごめんなさい、ごめんなさいっ! 覗くつもりはなかったんですぅっ!」
「ちょっと何言ってんのこの子! そんなんじゃないから、とにかくここ開けて!」
正体不明の男とぎゃあぎゃあ言い合っていると、私が押さえているのと反対側の戸がスパンッといとも簡単に開けられた。
……指を、挟むところだったのですけれど?
危ないな、と鋭い視線をそちらに送る。
「失礼しました、天女様」
黒髪色白な男がスルリと足音も立てずに押し入れから降りて、私の方へ近づいてきた。
忍び装束と言うのだろうか。藍色の着物に身を包み、同色の頭巾を被っている。
私が怯んで手の力が少し抜けた隙に、目の前の戸も開く。
思わず後退りすると、中から残りの二人も出てきた。
「へぁっ、その、ごめんなさい。シナ先生からここが私の部屋と案内されたのですけれど、違ったみたいなので失礼しますっ!」
自分でも何を言っているのかわからないまま、それだけ早口で言い捨てると、私は三人からくるりと背を向け鞄を抱え上げた。
今は高圧的な態度を取るよりも、怯えたふりをして逃げた方が得策な気がする。
シナ先生は左に歩いていったから、そちらに向かって走ればきっと会えるだろう。
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魚月(プロフ) - 小桜さん» わかります!めちゃくちゃあるあるですね!ありがとうございます。参考にさせていただきます! (2022年3月29日 20時) (レス) id: cd436a6c71 (このIDを非表示/違反報告)
小桜(プロフ) - 魚月さん» そうなんです! 私も本大好きなんですよ〜。私の場合は、途中まで読んだ本を栞を挟んだりするんじゃなくて、開いたまま伏せて置くのが許せません! 型が残ってしまうので。……これは結構あるあるなんじゃないかな〜って思ってます! (2022年3月28日 22時) (レス) id: 8b4a915ba2 (このIDを非表示/違反報告)
魚月(プロフ) - (続き)夢主ちゃんを究極の本好きにするため、本好きの友人達から「本好きあるある」を募って書いています。私はこうだな、というのがありましたら、ぜひ教えてくださいね! (2022年3月28日 19時) (レス) id: cd436a6c71 (このIDを非表示/違反報告)
魚月(プロフ) - 小桜さん» コメントありがとうございます! 夢主ちゃんと気が合いそうとは、小桜さんもなかなかの本好きですね。……実は作者もです笑。 (2022年3月28日 19時) (レス) id: cd436a6c71 (このIDを非表示/違反報告)
小桜(プロフ) - ヤバい……夢主ちゃんの言うことめっちゃ分かる……!! この子とは気が合いそうです! とても面白く、続きが楽しみです。更新頑張って下さい! (2022年3月28日 7時) (レス) @page19 id: 8b4a915ba2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:真白 | 作成日時:2022年3月15日 9時