【忍たま】本が読みたい私のそれどころではない室町生活

10話:だって汚れるし ページ12

「学園長先生」

「おお、文次郎か。入りなさい」



学園の中を歩いて庵と呼ぶにふさわしい建物の前に辿り着くと、文次郎さんが声をかけた。

お前も入れ、と言わんばかりにこちらを見られる。

一歩踏み出しかけた私は、今の自分の格好を見下ろして足を止めた。

雨に濡れてびしょびしょな上、泥にまみれて目も当てられないような制服である。
果たして、こんな状態で入っていいのだろうか。



「どうしましたか？」



後ろを振り返った仙蔵さんが、動かない私に目をまたたく。



「あ、すみません」



慌てて軒下に入ると、私は軽く泥を払い、ぎゅっとスカートの裾を絞った。







「失礼します」



中に入ると、部屋の奥に一人の小さなお爺さんが座っている。
彼が学園長先生なのだろう。



「座りなさい」



私は再度自分の姿を見下ろして、わずかに目を細めた。

入る前に泥や水気を払ったとはいえ、このまま座るのは人としてちょっとダメな気がする。

畳は簡単には洗えないのだ。
私が汚していいものではない。



私が座るのをためらっていると、茶髪の男が少し首を傾げた。



「どうかしましたか、天女様」

「あ、いえ、その……」



まずい。勧められているのに席に座らないのも、それはそれで失礼である。

内心おろおろしていると、見かねたように仙蔵さんが近づいてきた。



「どうしたんです、天女様。何かご不満でも？」



早く座れ、と言外に匂わされ、私は小さく苦笑する。



「すみません、これでは畳を汚してしまうかと思いまして」



ハンカチを敷いても良かったのだけれど、ポケット越しに触ったそれもぐしょぐしょだった。


しゅん、としている私に、仙蔵さんは深く溜息を吐いた。



「面倒な」

「はい？」



私が目を瞬かせている間に仙蔵さんは懐から深緑色の布を取り出すと、畳の上に敷いた。



「こちらにどうぞ、天女様」

「え？ あの……」

「お座りください」



語気が強めの声とキラキラ笑顔でそう言われては、座らざるを得ないだろう。



「ごめんなさい」



反射的に謝った私は、素早い動きで座った。



……後でちゃんと洗って返そうっと。

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