検索窓
今日:1 hit、昨日:4 hit、合計:362,968 hit

41話 ページ43

.



あれは、白昼の夢であったか、それとも現実の出来事であったか。



夢見心地の浮くような、沈むような感覚の中に俺はいた。

……彼女を忘れなければならない。彼女が望むのなら、俺はなんでもするつもりだった。
裏目がこんな所に出るとは思ってもいなかった。

彼女への愛を捨てねばならない。

あの時、愛している。と言えば彼女は純粋に俺を受け入れただろうか。



最後の接吻は仄かに甘く、ひどく苦かった。
湿っぽく、時間が経つのが惜しいような接吻。


とことん俺は馬鹿な男だ。彼女を早く殺しておけば良かっとさえ思う。






.






.






軍服を着て、羽織をまとい、帯刀する。

鎹烏が俺に告げた。



「汽車で乗客の行方不明事件が起きている!至急西へ向かい、無限列車に乗車せよ!」


頭上で目まぐるしく回る烏から目を逸らし、俺は西へ向かった。

千寿郎の頭を撫でた。父上に挨拶をした。
ただ、この晴れない気持ちは何か。




列車が車でかなりの時間があった。




通路を進むと、紫煙が俺を巻き込んで、年老いた男が喋った。


「お兄さん、(かんざし)は要らないか?嘸かし女に持て囃されるだろう?」


その声に俺は足を止めた。





男の出店にはずらりと簪が並んでいる。
平打簪に玉簪、吉丁……全てが女性の好むものばかり。

ふと、俺は藤をあしらった簪に隠れていた簪を見つけた。


赤い菊が施された2本軸の簪。




あの黒髪にこの花をさしてやりたいと思った。




彼女の気持ちを考えているとは到底思えない。
だが……いつか、落ち着いたらあの藤山へ行き彼女にこの簪をあげたい。




「では、これを頂こう」



男は笑った。




「2乗だな」



「何がだ?」



「簪を贈る意味。そして、菊の花言葉」


代金を払い、簪を持った。

赤く陰の含んだ熱っぽい色彩は彼女の唇しか出せない色。
装飾が鈴のような涼しい音を立てる。






.



「俺は、……」



.






添い遂げたい、そんな戯れ言のような贅沢は言わない。

ただ君に愛していると言いたい。

君が笑顔で幸せで、欲深でいいのならその隣には俺がいる。



…………不可能に近い、俺の願いだ。君はきっと俺の為に自分を犠牲にしているんだろう……?

42話→←40話



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 10.0/10 (342 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
467人がお気に入り
設定タグ:煉獄杏寿郎 , 鬼滅の刃
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

おもち - 赤い花白い花の歌詞が入っていてとても惹き込まれましたー!とても素敵です!!! (2020年3月24日 21時) (レス) id: 2fd70573e8 (このIDを非表示/違反報告)
茄子(プロフ) - 小説も挿絵も何もかもがとても素敵でした……素晴らしい作品をありがとうございます…… (2020年1月25日 23時) (レス) id: 58113d68f6 (このIDを非表示/違反報告)
モルス(プロフ) - 涙が止まりません……こんな素晴らしい作品をどうもありがとう…… (2019年12月2日 14時) (レス) id: d7cc26133c (このIDを非表示/違反報告)
愛郎素(プロフ) - 香坂さん» 語彙力が!高い!!よもやよもやです……本当に書いていてよかったと感じました!これからも頑張ります! (2019年10月12日 14時) (レス) id: 56f98660a0 (このIDを非表示/違反報告)
香坂 - 言葉使いや書き方、表現に引き込まれました。一つの本を読み終えた時のような気持ちになり、とても良い作品だと心から思いました。このお話が読めてよかったです。 (2019年9月18日 17時) (レス) id: c6f322a1f4 (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:愛朗素 | 作成日時:2019年8月30日 21時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。