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39話 ページ41

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『赤い花つんで、あの人にあげよ。あの人の髪に、この花さしてあげよ』



布団の上で私は杏寿郎さんに包まれていた。
混ざり合う髪。重なった手。抱きとめられる腰。絡んだ足。

少年と過ごしていた時間とは違う意味の幸福感。

護られ、愛されているという安堵。


この人は私を離すことはないだろう……でも、もう私の答えは決まっている。




『ねえ、杏寿郎さん……もう忘れましょう』




私は嫌でも彼から離れなければならない。


手がぴくりと反応する。
起き上がって、乱れた着物のまま私は杏寿郎さんを見下ろす。

虎か獅子か……見定めるぐるぐるとした瞳が私を捉えている。


「君を忘れる事は出来ない」


グッと私は堪えた。
冷静なままの彼は黙って私を見続けて、言葉を待っている。


これ以上_______私を蕩れそうとしないで。


「逆に君も忘れる事は出来ないさ、俺の事を」


『ええそうですよ……!あなたを忘れる事は出来ない……!だけど、忘れないときっと私はおかしくなる。あなたがもっと欲しくなる。でも、あなたには帰る場所がある』


「……本当に辛いな、君との恋は」


起き上がる杏寿郎さんは私を抱きとめた。
耳元の髪の生え際から指を通して、解いていく。





『あの晩……私とあなたは会っていない。あなたは任務を終えて、直ぐに帰った』

そう、これでいい。

これが最初で最後の夜でいい。

贅沢な時間。


『罰ですよ。死にはしません。私は人を惑わせてしまったという罰、人を好きになってしまったという罪を背負って、あなたは私を好きになった罪として、これからも鬼を沢山斬っていくという罰を背負って生きていく』

むせ返るほど冷たい空気を吸う。

『だから、もう忘れましょう?誤魔化すんじゃなくて、私はあなたを、あなたは私を知らない』

「君に会わない事が前提なのか」


ちらりと彼を見ると、彼もまた悲痛な目線を向けてくる。


『焼き殺してくださいとは言いましたけど、本当に焼き殺してどうするんです』




あなたの所為で、内側から焼き殺されていた。

この夜の熱を私は忘れなければならない。
時間がかかってでも、必ず……私は煉獄杏寿郎の恋慕と親愛を忘れ、ひとりで生きていく。


理由と罪名を忘れた罰を背負って、生きていく。




『これを持って忘却の儀としましょう?』




手を彼の膝に置いて、顔を近づけ、囁いた。泣きそうな声で。
そして、私は自分勝手な思いと考えで彼に唇を重ねた。




さよならです。
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おもち - 赤い花白い花の歌詞が入っていてとても惹き込まれましたー!とても素敵です!!! (2020年3月24日 21時) (レス) id: 2fd70573e8 (このIDを非表示/違反報告)
茄子(プロフ) - 小説も挿絵も何もかもがとても素敵でした……素晴らしい作品をありがとうございます…… (2020年1月25日 23時) (レス) id: 58113d68f6 (このIDを非表示/違反報告)
モルス(プロフ) - 涙が止まりません……こんな素晴らしい作品をどうもありがとう…… (2019年12月2日 14時) (レス) id: d7cc26133c (このIDを非表示/違反報告)
愛郎素(プロフ) - 香坂さん» 語彙力が!高い!!よもやよもやです……本当に書いていてよかったと感じました!これからも頑張ります! (2019年10月12日 14時) (レス) id: 56f98660a0 (このIDを非表示/違反報告)
香坂 - 言葉使いや書き方、表現に引き込まれました。一つの本を読み終えた時のような気持ちになり、とても良い作品だと心から思いました。このお話が読めてよかったです。 (2019年9月18日 17時) (レス) id: c6f322a1f4 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:愛朗素 | 作成日時:2019年8月30日 21時

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