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38話 ページ40

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ここまで熱烈な感情を持った事はなかった。



暗がりの中で本の頁を捲る紙の音が聞こえる。
ああつらい! つらい! もう女なんぞに生まれはしませんよ……本の一説が私に共感を促す。

恋をして、美しくなって、愛し合って、女は輝きを放つ。なんて言うのはきっと嘘だ。

熱くなって、不整脈が慌ただしくて、蕩けそうで、なんて柔軟で未練がましいのか。
純粋には彼の好意を喜べなかった。

それを純粋に受け入れることができるのは、300年前の私だ。



『あなたは、酷い男です』



閉め切った縁側の戸が開いて、射し込んだ月明かりに照らされた豊かな髪が輝いている。



「酷い男でもいい」



5日振りに見た彼は変わらなかった。
ただ少し、疲れている気がする。明朗快活とは言えない微笑。

不整脈は今は起きていない。




『何しに来たの』




本の文面に目を逸らして言った。

煉獄さんは下駄を脱いで、私に近づいた。




「話をしたい」




『話す事なんてありません』




「じゃあ、君に聞きたい」




『なんですか』




「君は、俺の事が嫌いなのか」




ああ、まただ。不整脈。

これはどう言ったら正解なんだろう。
「はいそうです。嫌いです」といえば、この気持ちはすっきりするのだろうか。
_____そんな訳ない。



私は狂おしいほどに、彼が好きだ。




「聞き方が、悪いな」



彼の目線は依然私のまま。

髪の毛をすだれのようにして顔を隠しているのに、僅かな合間を縫って彼は私を見ている。

向けれた事がないような優しいくも困った笑顔で。




困らせてしまって、ごめんなさい。

あなたとはこうなる筈じゃなかった。




だって、あなたは私を殺してくれるって言ったでしょ。





長い沈黙の後に彼は静か声で言う。





「今日は月が綺麗だな」





本当に酷い人。
そんなキザみたいな台詞言えるなんて、私以外の女でも良かったでしょうに。





『……月は、ずっと綺麗でしたよ』




驚く彼を見て、私は笑う。
彼の真似をして笑った。



この夜だけ……私の心と体は彼を受け入れる準備が出来ていた。





『杏寿郎さん』





「君は、本当におそろしい女性だ……A」





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おもち - 赤い花白い花の歌詞が入っていてとても惹き込まれましたー!とても素敵です!!! (2020年3月24日 21時) (レス) id: 2fd70573e8 (このIDを非表示/違反報告)
茄子(プロフ) - 小説も挿絵も何もかもがとても素敵でした……素晴らしい作品をありがとうございます…… (2020年1月25日 23時) (レス) id: 58113d68f6 (このIDを非表示/違反報告)
モルス(プロフ) - 涙が止まりません……こんな素晴らしい作品をどうもありがとう…… (2019年12月2日 14時) (レス) id: d7cc26133c (このIDを非表示/違反報告)
愛郎素(プロフ) - 香坂さん» 語彙力が!高い!!よもやよもやです……本当に書いていてよかったと感じました!これからも頑張ります! (2019年10月12日 14時) (レス) id: 56f98660a0 (このIDを非表示/違反報告)
香坂 - 言葉使いや書き方、表現に引き込まれました。一つの本を読み終えた時のような気持ちになり、とても良い作品だと心から思いました。このお話が読めてよかったです。 (2019年9月18日 17時) (レス) id: c6f322a1f4 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:愛朗素 | 作成日時:2019年8月30日 21時

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