17話 ページ19
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_______私もあなたの事が知りたい。
俺は彼女からの言葉を思い出していた。
かと言って、俺には言えることは限りなく少ない。
まず何を知ってもらえばいいのだろう。
彼女が知りたい事はなんだろうか?
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悶々と考える内に、俺は家の門の前に立っていた。
門をくぐり抜け、石畳を進む。玄関の引き戸は開いており、ひとりの弟が出迎えた。
「おかえりなさい!兄上」
「ああ、千寿郎!ただいま帰った!」
俺と千寿郎の声が家に反響する。
母が死んでから、家は静かになった。
この家に響くのは、俺と千寿郎の挨拶や会話と________
「千寿郎!酒をさっさと買って来い!」
父上の怒鳴り声だけだ。
奥から聞こえた声に千寿郎の肩は跳ね上がる。
俺との再開を喜んでいた嬉々の表情は一気に焦りの波に攫われる。
「千寿郎、ここで待っていなさい。父上に挨拶をしてくる」
父上のいる部屋に向かう時、この廊下は果てしなく長い気がした。
加えて体が徐々に重くなる。足取りも重くなる。
煉獄家にとって母上の死は大きかった。
母上は父上や俺が、比べものにならない心の強い人だった。
母上の死は父上から全てを奪った。
燃えるような生気は消え失せ、俺が任務にあたっている間もずっと酒を飲んでいたのだろう。
父上……どうしたら、あなたは昔の父上になりますか。
酒を控えて欲しい、体を大切にして欲しい、千寿郎に構ってやって欲しい。
「父上、ただいま帰りました」
俺は襖を開けて、そう言った。
君は、寂寥感に駆られる俺を知りたいか?
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おもち - 赤い花白い花の歌詞が入っていてとても惹き込まれましたー!とても素敵です!!! (2020年3月24日 21時) (レス) id: 2fd70573e8 (このIDを非表示/違反報告)
茄子(プロフ) - 小説も挿絵も何もかもがとても素敵でした……素晴らしい作品をありがとうございます…… (2020年1月25日 23時) (レス) id: 58113d68f6 (このIDを非表示/違反報告)
モルス(プロフ) - 涙が止まりません……こんな素晴らしい作品をどうもありがとう…… (2019年12月2日 14時) (レス) id: d7cc26133c (このIDを非表示/違反報告)
愛郎素(プロフ) - 香坂さん» 語彙力が!高い!!よもやよもやです……本当に書いていてよかったと感じました!これからも頑張ります! (2019年10月12日 14時) (レス) id: 56f98660a0 (このIDを非表示/違反報告)
香坂 - 言葉使いや書き方、表現に引き込まれました。一つの本を読み終えた時のような気持ちになり、とても良い作品だと心から思いました。このお話が読めてよかったです。 (2019年9月18日 17時) (レス) id: c6f322a1f4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:愛朗素 | 作成日時:2019年8月30日 21時