13話 ページ15
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「首の傷は痕になってしまったか…」
少年は湯上りの煉獄さんとひとしきり話した後、座敷の隅で本を読み始めた。
料理場と今を繋ぐ段差に腰掛けた浴衣の煉獄さんは低い声で言う。
1週間前に彼に切られた首の傷は内側まで治ってはいたが、火傷のような痕が痛々しく残っている。
赤く変色した傷跡を申し訳なさそうに見つめられた。
『でももう十分に塞がりましたから』
「しかし、女性の肌に傷を残してしまったことに変わりない」
女性の肌の美しさは宝と言うけれど、さして私には重要ではない。
着物の下に首付きのものを切れば、綺麗に隠れる。
女性らしさ、というのは補うところが沢山ある。
でも今の私は________
『見せる人もいませんよ、次はちゃんと撥ね飛ばしてください。これ以上傷がつかないように』
私は彼だけに聞こえる小さな声で言った。
笑って冗談めかせて言えば、頬杖をつかれてしまった。
『この首はあなたに撥ねられる為にあります』
目的もなく生きること。
私はそれに疲れてしまっているんだろうと思う。
人の役に立つ…鬼の私にできることは限られていた。
少年を拾ったことを小さな事だとは思わない。悪い事だとは思わない。
ただ、私のしている事は良い事ではない。
自分の気持ちを優先して、度々矛盾が引き起こる。
死にたいけど、死ぬのが怖いという昔の矛盾。
本心はただ地獄に堕ちるのが怖くて、せっせと償いやらをしているのかもしれない。
そうだ……私は生きている理由が欲しかった。
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おもち - 赤い花白い花の歌詞が入っていてとても惹き込まれましたー!とても素敵です!!! (2020年3月24日 21時) (レス) id: 2fd70573e8 (このIDを非表示/違反報告)
茄子(プロフ) - 小説も挿絵も何もかもがとても素敵でした……素晴らしい作品をありがとうございます…… (2020年1月25日 23時) (レス) id: 58113d68f6 (このIDを非表示/違反報告)
モルス(プロフ) - 涙が止まりません……こんな素晴らしい作品をどうもありがとう…… (2019年12月2日 14時) (レス) id: d7cc26133c (このIDを非表示/違反報告)
愛郎素(プロフ) - 香坂さん» 語彙力が!高い!!よもやよもやです……本当に書いていてよかったと感じました!これからも頑張ります! (2019年10月12日 14時) (レス) id: 56f98660a0 (このIDを非表示/違反報告)
香坂 - 言葉使いや書き方、表現に引き込まれました。一つの本を読み終えた時のような気持ちになり、とても良い作品だと心から思いました。このお話が読めてよかったです。 (2019年9月18日 17時) (レス) id: c6f322a1f4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:愛朗素 | 作成日時:2019年8月30日 21時