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34話 ページ36

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『煉獄さん』

彼は、

『煉獄さん』

何度呼んでも、答えてはくれない。



大股で私を引っ張って行く。

歩幅の大きさに私は間に合わず、足がもつれそうになる。握られた手が火傷しそうな程熱くて、溶けてしまいそうだ。

人混みを避け、迂回するように彼は閉鎖的な細い道を無言で進む。


行動の意味が理解出来ないで、だんだんと自分が粗相をしたんだ、という気持ちになって、「嫌われたくない」という思いで必死になる。

振り向いて欲しい。止まって欲しい。教えて欲しい。
そんな期待を込めて、決まりの悪い声で、


『_____……杏寿郎さん』


彼の名を呼んだ。



ざり、と彼が地面の砂を踏み潰して止まった。
あたりには人の音がない。


彼の顔を見て、私は一瞬息を忘れた。
この人は、怒っている訳じゃない。ただ、単純に機嫌が悪かった。


なに……その表情。

不快感に混ざる耐え難い何か……それをグッと堪える難しい顔……端正なお顔は贅沢に歪められている。



『煉獄さん、私なにかしましたか。分かりません』


「君は、何もしていない。俺が、衝動に耐えられなかったんだ」


『あの、教えてください。知りたいです』






.






.







「好いている女性を目の前で口説かれているのを見て、いい顔が出来ると思うか?」



その言葉が拳となって私の胸を殴った。

ああ……駄目だ。そんなの、絶対に駄目だ。



熱病にかかったみたいに体が火照る。心臓が灼熱に熱した鉄球のように破裂しそう。



「……君は、俺が今日どんな理由で誘ったと思う」


『それは…最後の思い出を作ってくださってるんじゃないんですか……』



もう理由は明確に分かっていた。



「君と逢い引きがしたかった。散々君を殺すと言っておいて、この有様だ」



『ねえ、煉獄さん』



「A、君は俺はそんなに酷い男が見えるのか」

責めはしないさ、そうな苦笑を彼は浮かべる。



握られた手を引き付けられて、私は体を寄せられた。




『んッう……!』

男の顔が近づき、ごくあっさりと唇が触れた。



過ぎていく時を防ぐように重ねられた唇は離れなかった。

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おもち - 赤い花白い花の歌詞が入っていてとても惹き込まれましたー!とても素敵です!!! (2020年3月24日 21時) (レス) id: 2fd70573e8 (このIDを非表示/違反報告)
茄子(プロフ) - 小説も挿絵も何もかもがとても素敵でした……素晴らしい作品をありがとうございます…… (2020年1月25日 23時) (レス) id: 58113d68f6 (このIDを非表示/違反報告)
モルス(プロフ) - 涙が止まりません……こんな素晴らしい作品をどうもありがとう…… (2019年12月2日 14時) (レス) id: d7cc26133c (このIDを非表示/違反報告)
愛郎素(プロフ) - 香坂さん» 語彙力が!高い!!よもやよもやです……本当に書いていてよかったと感じました!これからも頑張ります! (2019年10月12日 14時) (レス) id: 56f98660a0 (このIDを非表示/違反報告)
香坂 - 言葉使いや書き方、表現に引き込まれました。一つの本を読み終えた時のような気持ちになり、とても良い作品だと心から思いました。このお話が読めてよかったです。 (2019年9月18日 17時) (レス) id: c6f322a1f4 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:愛朗素 | 作成日時:2019年8月30日 21時

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