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19話 ページ21

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「まあ、随分と可愛らしい子」


「読み書きができるのかね?」


「はい、できます」



少年を拾って5年。
里親を探して半年。

首尾は良いのか悪いのかわからない。


長く生きてきて人を見る目は悪くは無いはずだ。

だが、どうも会う相手会う相手、少年に相応しい里親は見つからない。



そして、今日も雨が降っていた。



待ち合わせ場所は街中の喫茶店で、目の前に老夫婦が座っている。

「私達は子宝に恵まれなくてね」

窓辺の席で、窓に打ち付ける雨の音がよく聞こえた。


「赤ん坊は少し手に負えないだろう?」


……違う、



『教育方針はどう考えていますか?』


学校、とか。最後に付け加えると、老夫婦の穏やかな笑顔に小さな亀裂が走る。


「読み書きできるならもう十分でしょう?」

「北海道あたりに奉公に出したくてね」


私は自分の耳を疑うより先に落胆してしまった。

この二人は自分たちの子宝に変わる子より、自分の生活を安定させる駒が欲しくて、私の手紙に丁寧に返答したのだ。

あけすけと口にしてしまうように、この時代子供を奉公に出すのは珍しくない。



ただ、私は少年に父親と母親の優しさと温かさを教えてあげたい。

結論を言えば、この夫婦はハズレだ。



『すみません。この話はなかったことに』



私の言葉に完全に老夫婦の笑顔が割れた。



「どういうことよ!手紙を送ってきたのは貴女でしょう?!」

「冗談はやめてくれないか!」



鬼よりも私利私欲に走る人間は山ほどいる。理性と知性が崩れやすいのも人間の特色。


『冗談も何も。ご相談にのってくれたのは嬉しいですけど、最終的な決定権は私にあります』




話を切り上げると、私は少年の手を引いて喫茶店を後にした。

お互いにくらい気分になってしまった。




『ごめんね』


「いいよ、A、僕はまだAと居たいから」




ひとつの傘をさして人波に紛れた。

不意に視界の端に金と赤の髪が揺れた気がした。




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おもち - 赤い花白い花の歌詞が入っていてとても惹き込まれましたー!とても素敵です!!! (2020年3月24日 21時) (レス) id: 2fd70573e8 (このIDを非表示/違反報告)
茄子(プロフ) - 小説も挿絵も何もかもがとても素敵でした……素晴らしい作品をありがとうございます…… (2020年1月25日 23時) (レス) id: 58113d68f6 (このIDを非表示/違反報告)
モルス(プロフ) - 涙が止まりません……こんな素晴らしい作品をどうもありがとう…… (2019年12月2日 14時) (レス) id: d7cc26133c (このIDを非表示/違反報告)
愛郎素(プロフ) - 香坂さん» 語彙力が!高い!!よもやよもやです……本当に書いていてよかったと感じました!これからも頑張ります! (2019年10月12日 14時) (レス) id: 56f98660a0 (このIDを非表示/違反報告)
香坂 - 言葉使いや書き方、表現に引き込まれました。一つの本を読み終えた時のような気持ちになり、とても良い作品だと心から思いました。このお話が読めてよかったです。 (2019年9月18日 17時) (レス) id: c6f322a1f4 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:愛朗素 | 作成日時:2019年8月30日 21時

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