第1話 ページ2
―――加澄、お誕生日おめでとう!!
雷門中へ向かうタクシーの中、如月はジャージの上から左手首を掴んだ。ジャージの下にある左腕に着けられたリストバンドは、お日さま園に来てから2回目の誕生日にプレゼントとして貰ったものだ。あの時の皆の笑顔が、彼女の胸を締め付ける。
隣に座る瞳子は、そんな如月を心配そうに見つめていた。
「加澄、…本当によかったの?」
『うん。姉さんと一緒だから大丈夫』
瞳子に声を掛けられ、如月は強張らせていた顔を上げる。瞳子の顔を見て優しく微笑むのは、声を掛けてきた彼女があまりにも不安そうな表情をしていたから。
―― 5年前、エイリア石の飛来。あの日から全てが一変した。
その石に身体能力を上げる力があることが判明してから、瞳子の父･星二郎の頭は復讐の欲に支配された。如月と共にお日さま園で育ってきた皆は今、星二郎のためにその身を捧げている。
大好きな父さんのために。初めは皆と同じように星二郎に従っていた如月だったが、徐々に違和感を抱き始めた。サッカーの強さによって皆をランク分けしたり、体が悲鳴を上げる程の過酷な練習を課したり。皆のことを復讐の道具としてしか見ていない――そんな父さんも、そこに存在価値を見出して父さんに傾倒する皆も怖かった。
「ありがとう。私も加澄がいてくれて心強いわ」
少し穏やかな表情になった瞳子が微笑む。
これから出会う雷門イレブンはどんな人達なのだろうか。不安と期待を握りしめ、如月は走り去っていく窓の外の景色を眺めた。
＊
「なんてこと…」
校門の前でタクシーを降りた2人は、無惨な雷門中の校舎に唖然とした。
あんなに優しい皆がこんなことをするなんて。信じたくない現実を目の前にし、足下がぐらりと揺れる。
如月が瓦礫の山を見て思い出すのは、彼女から全てを奪ったある出来事だった。
―――やだっ、やだよ……!! 兄さん…ｯ!!!
冷たくなった兄を揺することしかできず、泣き叫んだあの時。必死の呼びかけに応える者はおらず、返ってくるのは呻き声だけだった。
「――…加澄! 加澄ｯ!!」
『……ね、さん…』
瞳子に肩を揺すられてハッとする。
恐怖に震えていた如月の瞳は徐々に落ち着きを取り戻し、目の前にある青ざめた瞳子の顔を捉えた。
『ごめん、ちょっと驚いただけ…』
もう大丈夫。力なく微笑んだ如月への心配は消えないままだが、何でもなかったように歩き出すので、瞳子も隣を歩いて目的地に向かった。
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一森(プロフ) - bizyuさん» コメントありがとうございます! そのように言っていただけて嬉しいです…! 更新頑張ります(^^) (12月25日 2時) (
レス) id: a9a946d0de (このIDを非表示/違反報告)
bizyu(プロフ) - とても面白くて一気読みしてしまいました！これからも一森さんご自身のペースで頑張って下さい(◍•ᴗ•◍) (12月24日 17時) (レス) id: 529a911b17 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：一森 | 作成日時：2023年9月16日 3時
