さよならにブライダルベールを添えて。

10話 ページ12

諸伏side



放課後。
今日もまた、ゼロと共に彼女の病室を訪れる。

あれからもう3週間は過ぎていて。
本当に目覚めない可能性が現実味を帯びてきて
そんなことないと振り払うように首を振った。

大丈夫。きっと今日は起きてて、おはようって、
俺たちにいつもの笑顔で言ってくれる。



『柚、早く起きないかな…』



降谷「そうだな…」



暗い雰囲気をみたらきっと彼女は悲しむとか、
そんなの分かっているけれど、項垂れたままの俺達は
今日も長い道のりを歩いて病院に行くんだ。






病院に着いた俺達は彼女の病室に向かった。
受付の先にあるエレベーターで上の階に行って、
そこから左に曲がった突き当りの部屋。

いつも通り静かに扉を開けて、彼女の眠るベッドへ
視線を向けたとき、一瞬思考が停止した。



そこに彼女がいなかったから。



綺麗に折り畳まれた布団とシート。
彼女の机においてあった写真立ても着替えもない。
花の生けられていた花瓶は元の場所に戻されていた。

隣を見れば同じく唖然とした表情のゼロ。



降谷「どういうことだ…？」



『っ、わからない…』



そんなこと、俺だって聞きたい。

たしかに、最近は俺もゼロも学校で忙しくて、
彼女のお見舞にあまり行けてなかった。

俺たちの知らない間に何があったのだろうか。

なにも残ってない病室は彼女の息遣いもなく静かで、
本当に彼女が何処かに消えてしまったような…



その時、近くを通りかかった看護師さんが、
部屋の前で立ち尽くす俺等を見て声をかけてきた。



看護師「どうかしたしたか？」



『あ、あの…この病室にいた小花井さんって…』



看護師「ああ、その方なら転院していきましたよ」



降谷「『えっ！？』」



思わず大きな声が出てしまったのは許してほしい。
同じく隣で驚きの声を上げたゼロと顔を見合わせた。



降谷「何処に転院したか分かりますか？」



看護師「御免なさい、其処までは教えられないの」



深く追求しようとしたゼロに個人情報だからごめんね、
と一言告げて看護師さんは去っていった。

残されたのは俺とゼロの二人だけ。



降谷「…取り敢えず、明日学校で詳しく聞こう」



『あ、ああ…』



翌日、学校でクラス担任に彼女の行方を聞いたが、
返ってくるのは"教えられない"の一点張り。

おばさんに聞いてもまずもって転院した、
転校したことすら知らなかったらしい。

結局、俺達に彼女がいなくなったという
事実だけが残された。

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