23 戴冠式 ページ25
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この日は雲ひとつない晴天だった。
何台ものリムジンが大聖堂の入り口に到着し、レポーターの白雪姫がテレビカメラを前に立っている。
「戴冠式の会場より生放送でお伝えします! ベンジャミン王子の戴冠まで、もう間もなくです!」
大聖堂の中では出席者たちが次期国王の登場を今か今かと待っていた。『美女と野獣』の描かれた巨大なステンドグラスの下には聖歌隊が並び、その前のバルコニー席ではイヴィ、ジェイ、カルロスの姿がある。ビーストとベルの側に控えるAは制服の襟元を正した。
聖歌隊が歌いはじめると大きな扉が開かれ、ベンが現れた。ロイヤルブルーのカーペットの上を一歩一歩しっかりと踏みしめるように歩いていく。
やがてベンは魔法の杖の待つステージに上がり、フェアリー・ゴッドマザーが彼の頭に王冠を載せた。ビーストがガラスのドームを取り外し、フェアリー・ゴッドマザーがベンの前に杖を差し出して高らかに問う。
「いかなる時も正義と慈悲の心を持ち、オラドンの王として民を導くことを誓いますか?」
「誓います」ベンが答える。
この時点でAはマルの心が揺らいでいることに気がついていた。ベンを見つめるマルの目にうっすらと涙が浮かんでいることにも。彼女はおそらく動けないだろう。
――そうだ、ジェーンがいる。
Aはジェーンに目をやった。何秒か見つめていると視線に気づいたジェーンが見返してきた。Aは杖を見、もう一度ジェーンと目を合わせると優しく笑みを浮かべ、僅かに頷いた。
『杖を奪いたいなら今がチャンスだよ』
ジェーンはAがそう言っているように感じた。もしかしたら、そんなつもりではないのかもしれない。だが、深く考える前に体が動いていた。
「ここに謹んで、新たなる王に祝福を――」
突如、フェアリー・ゴッドマザーの手から杖が奪われた。奪ったのはマルでも他の四人でもない。ジェーンだ。
「あなた、一体何を……!」
「私を綺麗にしてくれないなら自分でやる!」
ジェーンは必死にパワーを抑えようとするが上手く制御できず、杖は火花を散らし、放たれた稲妻がステンドグラスを突き抜けた。
マルがジェーンのもとに駆け寄ると同時にAが二階のバルコニーに向かって叫ぶ。
「カルロス!」
青と黄色のリボンで結ばれた細長い包みをカルロスが投げる。マルがジェーンの手から杖をもぎ取った直後、Aは白い布を剥ぎ取った。中身の正体は弓。
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闍弥嵩 李(プロフ) - 夢さん» ありがとうございます! 申し訳ないのですが、この作品で完結させたいと思っているので続編の予定は今のところありません……。 (12月8日 10時) (レス) id: 6a8608f031 (このIDを非表示/違反報告)
夢 - こんばんは。ディセンダントがめっちゃ好きでその中でもこの作品が一番好きです!ディセンダント2とかって書けたりしますか?できればお願いします! (12月7日 21時) (レス) @page30 id: b05a1258a4 (このIDを非表示/違反報告)
闍弥嵩 李(プロフ) - ち の ち ゃ ん 。さん» ありがとうございます!めっちゃ嬉しいです! (2022年9月25日 18時) (レス) id: d43cc1ea1d (このIDを非表示/違反報告)
ち の ち ゃ ん 。(プロフ) - うんわ好き。すきむりすき (2022年9月23日 10時) (レス) @page16 id: a284f3be6e (このIDを非表示/違反報告)
闍弥嵩 李(プロフ) - 百華夜さん» ありがとうございます! クールな夢主さん書いてみたかったんです! (2022年9月13日 20時) (レス) id: d43cc1ea1d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:闍弥嵩 李 | 作成日時:2022年8月17日 16時