結婚しても彼女に嘘は通じません。【夢野幻太郎】

あの日の嘘と、今日の嘘　転 ページ44

「は…？」

目の前が白くなる。いや、黒いのだろうか。

色なんてわからない。


彩なんてわからない。

ただ、世界が大きく、右に、左に、傾く。
嫌な方向に、ぐらりと、大きく傾くだけ。


『今日ね、詩乃ちゃんが出版社で倒れたんだって。
それで、相当ヤバかったみたいで、シンジュクの寂雷のジジィのとこ連れてったの。
アイツ、あれでも天才医師だから。

そしたら、さ…。』





余命、一か月だって。





嘘だ。

そんなの、嘘だ。

バタンッ

「あ、おい！幻太郎！」
「ダメだよっ、今詩乃ちゃん部屋に一人でいたいって！」

知るか、そんなの。


知ったこっちゃあるか、そんなもん。




「詩乃っ！！」



君の命の危機に比べれば



意識の端にすら入らないんだ。




部屋に飛び込むと、机に突っ伏しっている彼女。ドアの開く音に驚いたのか、びくりと肩を揺らし、ゆっくりこちらを振りむく。
そんな彼女の目は真っ赤で、顔も今までにないくらいにぐちゃぐちゃで。

あぁ、本当なんだ。

小生の感情もぐちゃぐちゃで。

思い切り、

「詩乃…っ！」
「…！げんっ、たろっ…！」





抱きしめるのも当然だろう。

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