この薄汚れた世界の中で

#6 疑惑(立花side) ページ16

思い返せば､前からAに気になる所が無かった訳じゃない

突然櫻井さんに連れられて来て､次々と成果を上げていったその驚異的な才能｡

その出どころを知りたくて､彼女について調べた時期もあった｡……でも､書庫のファイルにも菅沼が操るマザーコンピューターにも､Aの情報は名前と年齢以外何も記されていなくて｡

当然､Aの口から昔の話なんて何一つ聞いた事もない
何処に居たとか､何をしていたとか､家族はいるのかいないのかとか｡



まるで､AAの人生は"FIRSTから始まった"かのように



隠し事をしてる奴なんて他にも居る､と見ないフリをしながらも少しずつ膨らんだ疑惑は……今､一つの確信に変わった

きっかけはいくつかある｡
まず､野島さんが"被験体"と言った瞬間､ピクリと肩を震わせた事

次に､木村から作戦を聞いた時の目
口では｢了解｣なんて軽く流していたけど､その目はここではない何処か遠くを見ていた事

最後に"前みたいに"という櫻井さんの言葉
誰も過去を知らない筈なのに､何故櫻井さんは知っていた?………お前､一体何を隠してる?


俺の直感からして､他とはケタ違いの何かがある


そう思った俺はAが俺の手をはらう瞬間､ぐいと引き寄せた
｢聞きたい事がある｡この後､残って｣
『……はい｡』
｢じゃあ､解散して作戦練ろう?俺もAと段取り確認したら戻るから!｣

部屋全体にそう告げると､DABAのメンバー達はぞろぞろと退室していった
心配なのは潤だけど……菅沼に連れられて行った｡よし

皆が出ていったのを確認してから､Aに詰め寄る

｢お前､俺らに何を隠してる?｣
『何がです?』
そう言って俺を見るその目は＿＿＿＿
酷く冷たかった｡まるで瞳には何も映っていないかのような､そんな冷たさ

見た事の無いAを前にして､背筋が凍っていくのを誤魔化すように強引に壁に押し付けた



＿＿＿＿＿ﾀﾞﾝｯ



『……っ』
｢何が､じゃないだろ｡話せよ｣
『いや……ですね』
｢何で?そんなに頼りにならな『話したところでどうかなりますか?』

感情の無い声でAが淡々と吐き出す

『言った所で､何も変わらない｡言う気も無い｡……だから､早くその手を退けろ｡邪魔だ』
｢俺だって知りたいから聞いてるんだよ｣



そこから暫く､睨み合いが続いた｡
そんな沈黙を破ったのは＿＿＿＿＿＿

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