流れ星いつつ。 ページ5
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It was a very close couple, so I want to take pictures.
「とても仲のいいカップルだったから、写真を撮りたいんだ」
そういって笑ったおじいさんから見たら、俺達は恋人同士に見えたのだろうか。
おじいさんだけじゃない。こうして、一緒に歩きながら笑い合っている姿は、
ここの人達の目には恋人が一緒の時間を過ごしているように見えるのだろうか。
どこにでもいる。ごく、普通の恋人同士に。
「……翼、」
大きく手を振りながら去っていくおじいさんに手を振れば、隣からとても静かな声が
俺の名前を呼んだ。振り向く。俺を見つめた彼女はどこか気まずそうで、
どうしたらいいのか分からないとバレバレな顔で下手くそな笑顔を浮かべていた。
キリキリと、爪で引っかかれたような傷跡が刻まれていくのを感じながら、俺は笑う。
優しく、彼女の頭を撫でた。
「写真くらい、いいでしょ。」
現実じゃない。そう、これはいくらそう見えたとしても現実ではない。
リアルじゃない、ただ”そう”見えるだけのまやかしだ。
写真くらい____”写真の中だけでも、いいだろう”。
彼女に吐いた言葉とは裏腹に、裏を返すように、恐らく言葉に滲んでいた本音を、
きっと彼女は知ることはない。どうせこれは現実じゃない、現実に起こるはずがない事なんだから。
写真の中でしか見られない現実。現実では見ることの出来ない幻影。
「とても仲の良いカップルだったから。」屈託のない笑みでおじいさんがそういったとき、
確かに俺の胸にあったあの感情は何だろう。
僅かに走った、甘さと苦さが混じったあの感情は、何だろう。
困ったように笑う彼女の笑顔が、何であんなにも切なく感じたんだろう。
____嗚呼、こんなにもぐちゃぐちゃだ。
「俺達、心の友だし」
俺はそう言って笑った。知っているのだ。この言葉が、彼女が安心する言葉だってことを。
心の友、というずるがしこくて卑怯な俺が作った彼女の逃げ道。
絶対に壊れることもなく、揺らぐこともなく。
これからもずっと、永遠に、一生。俺達を繋いでくれる魔法の言葉。
「それとも、心の友と写真撮るの嫌なわけ?」
わざとからかうように問えば、彼女が安心してまた笑顔を見せることを、俺は知っている。
そしてそれが、俺の最大の彼女への優しさで、俺の最大の弱さだということも。
「…もう。」
柔らかく歪んだ笑顔の奥で、彼女は何を見つめていたのか、俺は知らなかった。
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K - 誰との結婚式ですか? (2019年8月18日 20時) (レス) id: 70bbe6910f (このIDを非表示/違反報告)
yossy(プロフ) - とても綺麗で切ない作品でした。黒猫での翼の気持ちとこの作品での翼がリンクします。大好きなK'Sシリーズ。これからも楽しみにしています。 (2018年12月29日 3時) (レス) id: ce568f86b1 (このIDを非表示/違反報告)
0 - あと、kobato*さんの作品一覧表を見させていただきましたが、パスワードがけっこう掛けられていたので、少し残念です。もしよかったら、作品を公開していただけないでしょうか?勝手なお願いで申し訳ありません。 (2018年9月30日 20時) (レス) id: e2992bba0e (このIDを非表示/違反報告)
0 - ありがとうございます!もし書けたら、タイトル教えてください! (2018年9月30日 20時) (レス) id: e2992bba0e (このIDを非表示/違反報告)
Kobato*(プロフ) - 0さん» 0さん、コメント本当にありがとうございます。今はなんというか…書きたいものの書ききって小説からは遠ざかっていたので0さんのコメント本当に嬉しかったです…!どれくらい時間がかかるか分かりませんが頑張ります! (2018年9月24日 14時) (レス) id: da506c070e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:Kobato* | 作成日時:2017年7月22日 19時