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「母さん」
「あら理！おかえりなさい。ってA？どうしたのそんなに泣いて！」
ソファから立ち上がった母が近づいてくる。化け物も一緒に近づいてくる。どうしよう、どうしよう。目があって、動けない。
「ただいま母さん。……頭痛いの？」
「そうなのよー！昼からずっとよー？何かしら、更年期…？」
「やあねーもう！歳を取りたくないわあ」と母がおちゃらけて言うのを兄は口だけ微笑んだ。
「まだ母さんは若いでしょ。俺が治してあげるからしゃがんで」
「あら、本当？理が触ると痛みが消えるのよね〜！ふふ、お願いしちゃうわね！」
そう言って兄の前でしゃがむ母。頭を少し傾けて、化け物がめのまえ、に。
「痛いの痛いの飛んでいけ。」
そう兄が手を伸ばして化け物に触れるとサラサラと解けるように消えていった。
衝撃だった。兄を見つめた。あの化け物は？と目で訴えれば兄は人差し指を立てて、「しー…」と静かに微笑んだ。
あれから私が変なのが見えると言い始めても否定もせず拒絶もせず、
「どんなのが見えるの？」と目線を合わせていつも聞いてくれた。
「おにいちゃん」
「うん？どうしたの？」
「へんなのがいる」
「お。それは困るな。よっし。兄ちゃんに任せろ！」
私を抱き抱えて、てってってー！と歌いながら歩いてくれる。
兄曰く、
「Aは見えて大変だなあ。偉いなあ。そうそう、怖いって思うと駄目だってな。
怖いって思ったら彼奴らは共鳴して近づいてくるんだってさ！
ってことで目一杯笑うんだぞー！」と。
あちらこちらに不気味な姿の化け物がいる。
いやだな、みたくないなあと兄の首もとに顔を埋めると優しく頭を撫でてくれた。
それを、当時20歳前後の五条先生は見ていたのだ。
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作者名：目 | 作成日時：2020年11月28日 1時
