【ヒプノシスマイク】マイクを持つ手に花束を

15th track ページ28

私が都内に引っ越して来た理由は2つほどある。

1つ目は、自立。
いつまでも施設にいる訳にもいかない。
幸い、父と母は私にたくさんの遺産を残してくれていた。だから、生活には困らない。高校生となった今、アルバイトをする必要もある。

2つ目は、恩返し。
銃兎さん以外にも、とてもお世話になった人がもう1人いる。
都内で働いている、とある医者だ。
心療内科が専門ではないのだが、事件後のメンタルケアをしてくれた。
高校まで定期的に受診しており、かなり助けてもらった。
都内に転入が決まった時、先生の病院が近いこともあり、真っ先に先生に連絡した。何か恩返しがしたい、と。

勿論最初は断られた。
しかし、何でもするから、と引き下がらないでいると、先生の家の手伝いを頼まれた。
先生は忙しく、なかなか家事をできないという。それを、私に任せてくれた。
家事が好き、ということもあり、私は迷わずそれを承諾した。
ただ、先生は給料は払わせて欲しいと言った。
これも、最初は私が断っていたが、条件として突きつけられてしまったので、渋々了解した次第である。

既に何回か先生の家には行って、仕事もしている。
夕飯の用意、洗濯、掃除。世間が想像する家政婦とそう変わりはない。先生が帰宅して、お風呂の用意をしたら、私の仕事は終わり。
先生は優しく、穏やかで、初めて働く場所がここで良かったと、心から思っている。

今日も、そのバイトの日。
私は合鍵を使って、先生の家にお邪魔する。
まだ帰ってきていない。
ふわりと、あの先生の香りが鼻腔をくすぐった。

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