[Elext City] (ページ32)

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阿部｢…はぁ｣
溜息の音が聞こえる。
致し方ない。こんな状況なのだ。
阿部はキーボードを打ち込みながら、原因不明のバグ──いや、ある程度大まかな検討はついているのだが──を消滅させる方法を考える。

松村｢阿部さん、今回の件に関して、メインサーバーに何かしらの危害があると思われます｣
阿部｢知ってる。｢55TF2991｣と｢715HI3991｣からの報告は何かある？｣
松村｢今調査中だそうです。またFukaさんからデータ提出の方をしてくれるそうで｣

その言葉についた彼の溜息に、松村は困ったように眉をひそめた。
花火大会イベントが終わってから阿部が少し苛立っているというのは目に見えてわかっている。
ラウールも少し怖がっている様子だった。
…まあ、ラウールが入ってきてからこんな険しい顔をする事はなかったからか。

松村｢…阿部さん｣
阿部｢今度は何｣
松村｢人型のバグの発見報告がありますが…｣
阿部｢…｣
松村｢…阿部さん、｣
阿部｢…人型のバグ、ねぇ…｣

彼の冷たい視線がディスプレイから動かないまま、彼の本来ですら低い声が更に低く響いた。
松村｢……どうしますか｣
阿部｢発見次第消去。それ以外ある訳ないでしょ｣
松村｢…はい｣

三白眼気味の目がこちらに向けられる。
松村｢…わかってます｣
阿部は何も言わぬまま、再びその視線をディスプレイに戻した。
そしてまた1つ吐かれた溜息が、彼が言わなかった言葉を集約させるような、そんな風に聞こえて。
松村は暫く、キーボードを叩く手を動かせないでいた。