あれから ページ19
あれから何年経っただろう
今私は彼が言った『歳が近くて性格もいい執事』が運転する車で服を買いに行った帰り道である。
「…ねえ安田、ここ遠回りじゃない?」
「ははは、バレました?
ええやないですか〜、今日天気ええですし」
「いやいや…」
「ほら見てみてくださいよ
海がめっちゃキラキラ光ってて宝石みたいです」
結局安田の言葉に乗せられてそっと窓から見ると
なるほど確かに、水面は午後のうららかな陽光を纏い輝いていた。
…と、その時
「ちょっとストップ!」
「えっ!?ちょ、ちょお待ってください路肩止めます!」
海岸沿いの道を歩いている見覚えのある人影を見かけた。
「もぉ〜どおしたんすかいきなり…」
「…丸山…」
「えっ?……あっほんまや!」
そこには似合わない普段着姿の丸山がいた。
相変わらずの髭。
手には近くの移動販売の車で買ったらしいアイスが、二つ。
もしかして、と目で追う。
丸山が通り過ぎそうなのを察して安田がさり気なく車を少し前に進めた。
ちょっとだけ丸山が駆け足になる。
しかしこちらに気づいたわけではなく、それはアイスを買ってきた目的の人物が見えたかららしい。
あの後ろ姿は、絶対。
「…咲子さんだ」
「知り合い?」
「……………うん」
丸山の足音に振り返ったのは間違いなく咲子さんだった。
着ているものは私の屋敷にいた時より安物だけど小綺麗で
二人は楽しそうな表情で幾つか会話を交わしている。
そっか。
よかったね。
よかったね丸山。
あんたのことは大嫌いだったけど
今も好きにはなれないけど
…誰かを好きになる、ってことを知った今
よかったって思ってるんだよ
丸山が好きな人と人生を共にできていること
お互いに幸せそうな顔を浮かべてること。
病める時も、健やかなる時も
共に歩みたいと思える人を見つけるというのは
きっと奇跡なんだと思うから。
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作者名:よつげ | 作成日時:2019年2月27日 16時