シャングリラに綴る戯曲【掃き溜めの星】

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浅葱が親指で自分の胸をトントンと小突くのを見て、少年は一度だけ頷くと、後ろ髪引かれつつも玄関の方へと走っていった。その足取りは軽くはなかったが、以前よりも力強く見える。
　手紙を見せたのは正解だったかどうかは分からない。だが、もしこれをキッカケに少年の心境に、そして少年の将来に僅かな希望の光を宿せたのなら、教育者としてこれ以上の誇りはないと浅葱は笑った。


＊


　それと、─う一つだけ。──に言って─きたい事──るの。
　本当─直接会って話─た─ったけど、貴方─きっとも─会ってはく──いだろう─ら、─処に──留めて─こ──なって─
　──ね、私、あ──の─後──てな──。貴──の約────から、ずっ─分───た──。
　嗚─、────なく────の。そ───が─た───い──る───ない───も─な──────纏ま─────
　─あ─ど───────た──────
　それ────方────────う─
　──、─────事───────

　(この先はインクの滲みや破損、紙の劣化で解読困難)


＊


　少年の姿が見えなくなると、浅葱は気怠げに院長室に戻る。少年が去った後の院長室は、己の呼吸音でさえも大きく聞こえる程に静まり返っていた。
　子供達の声が微かに反響している校庭を眺めながら浅葱はデスクチェアに座ると、劣化で色褪せつつある手紙に再度目を通す。その内容は何度も読み漁った所為で暗唱出来てしまう程だったが、一度だって誰かに内容を話した事はなかった。両陣営の首領は勿論の事、金剛花陽について捜査協力してくれた東雲や神奈月、星崎、秘密箱の解錠の手伝いをしてくれた赤嶺ですらも、実は詳しい内容は教えていない。我ながら薄情だと感じる事もあったし、報酬として手紙の内容を共有するのも良いのではないかと考えた事もあったが、最終的に浅葱は自分の中で全てを消化しようと決意した。

　然し、浅葱にはどうしても解せない事が一つだけあった。それは金剛花陽が認めた五枚の便箋。他四枚は翠斎槻と貴方達と称した第三者に向けての忠告文なのに対し、最後の一枚、五枚目の内容が他の便箋と比べ、雰囲気が明らかに異なっていた。何もかも異質だったのだ。

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