モデルサボ君とマネージャーエース君 ページ20
エースしばくオーラ全開のサボも良いけど、エースにだけ甘えるサボも捨てがたい
「カットォオオオ!!」
監督が叫ぶ。サボがびしょ濡れになって俺のところに戻ってくる。
サボは現在人気爆発中のモデルである。
幼馴染の俺は大学卒業と同時にサボのマネージャーに就任した。
どうやらサボが本格的にモデルの仕事を始めるにあたってマネージャーは俺じゃないと嫌だってごねたらしい。ザ・大人の人に家の前で寄ってたかって頭を下げられた。
その時はどうしてそこまでしてサボの要求を呑むのか不思議だったが、この人気っぷりをみたらサボに将来のスター性を見つけていたのだろう。
現在サボが請けているのは、化粧品の広告ポスターとCMだ。
白いスタジオで、サーカスで使うような透明な大きい水槽を使った撮影はなかなか大規模なものだった。
水や汗に強いということが売りらしくて、その商品を使った化粧を施されたサボが水に入って撮影する。
その水槽に飛び込むカットや、水中でポーズを取るカットなどはすでに撮影し終えたが、撮影が行き詰ったのは、サボが水中で目を大きく開けるシーンだ。
「んー半目になっちゃってるね」
今撮影したデータを確認した監督が、カメラを確認しながら言った。
濡れたサボの髪を拭いてやりながら覗くと。
「だーーっはっはっはっは!!」
「笑うならお前がやれ!!!」
「だっておま、これ、変顔?!はっムリきつ、はっは!!」
サボに思い切りどつかれた。
広告会社の担当であり顔見知りでもあるコアラが「サボ君大丈夫？エース君も」と声をかけてくれた。
サボは、水中で安定させる肺活力とかは問題ないのだが、どうにも水中で目を開けられないらしい。
変なところで子供みたいなんだよな。
「なんで陸の動物が水中で目を開けなきゃなんねぇんだよ、意味わかんねぇ」
ぶつぶつと文句を垂れ始める。やばい、イライラしてきてる。
コアラや監督から何とか撮影を進めたいという強い視線を感じる。
なんだよこれ、中間管理職の気分。
仕方ない、サボの立て直しなど慣れたもんだ。
「……サボ、冷静になってみろ。人間の目はもともと潤んでるだろ？むしろ乾くと痛いだろ？俺たちはいつも眼球を水につけてるようなもんなんだよ。水の中のほうが眼球は喜ぶんだよ。だから眼球のために水に浸してやってやれ」
「……エース、頭大丈夫？」
マジの顔だった。コアラも監督も吹いてた。殺意が湧いた。
「まあでも、エースに言われてちょっと勇気出た」
後日駅前の巨大広告には、水に金髪を漂わせてこちらを見つめるサボの写真が載った。
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作者名：piece OF cake | 作成日時：2020年12月5日 1時
