第4章 - 15話 ページ15
Aを背負ったまま借家の鍵を開け、家の中に入る。
「う…」
背中から小さな呻き声が聞こえた。
「起こしちゃったかな。今オレの家に着いたところだよ」
彼は意識が朦朧としているのか何も答えない。
仕方ないだろう。あの怪我の様子だ。
「さっき病院で銃弾だけ抜いてきてもらった。
毒の方は、処置できないって」
オレの借家があるこのエオン王国は発展しているとはいえない粗末な国だ。
病院もあることにはあるが、小さく、大した治療も受けられない。
とはいえ、どこの病院だろうと彼の毒は治療できなかっただろう。
おそらく神経系に作用するこの毒は、抜け切るまで待つしかないからだ。
彼の小さな体が小さく震えている。
「降ろすよ」
オレは部屋にひとつだけあるベッドに彼をそっと寝かせた。
また痛そうに小さく声をあげる。
ハンター試験での“カゲ“との戦闘の際からずっと絶状態の彼。
絶状態で念能力者と戦闘したらどうなるかなど万人の知るところであろう。
今生きていると言う事実も奇跡のようなものだ。
彼は朧気にオレを見上げる。
弱々しく口を開いた。
「誰…？」
記憶が混乱しているのか、頭がうまく働かないのかは分からないが、オレのことを認識できないでいるらしい。
彼の細い腕が伸び、オレの頬に触れる。
弱々しく、今にも消えそうな生。
そっとその手首を握り、目を合わせる。
「クロロだ。分かるか？」
オレの名を言うと、彼は目を細めてそのまま閉じた。
しばらくそうしたあと、口を薄く開ける。
喉から声を絞り出すようにして
「喉が、乾いた」
と言った。
オレはAの肩を抱くようにして起き上がらせる。そばに置いていたペットボトルの蓋を開け、少しずつ口に含ませた。
彼が満たされるまでそれを繰り返し、そのあと再びベッドに寝かせる。
キャップを閉じ、立ち上がろうとするとAはオレの袖の端を掴んだ。
「いか、ないで…。……」
声がうまく出ないながらも、呟く。
最後の方は唇だけが動き、喉から出る音はない。
そう呟いたあと、目蓋の縁から一粒だけ涙を零した。そのあとは動かなくなり、聞こえるのは規則正しい呼吸だけ。
(…寝たか？)
顔を見つめる。寝ているようだ。
そっと指先で目元を拭う。
(Aがこうやって死ぬのは、惜しいな)
長い付き合いのない人間にこう思うのは久しい気がした。
続く (更新停止中)
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ねこ@自己満小説(プロフ) - めっちゃ面白いです！更新頑張ってください！ (2021年12月6日 7時) (
レス) @page15 id: d675a829f6 (このIDを非表示/違反報告)
零落*・reira(プロフ) - なつみかんさん» コメントありがとうございます！すごく嬉しいです！これからもこの作品をよろしくお願いします( ´ ▽ ` )ﾉ (2020年2月18日 7時) (レス) id: 5e63a1d1e7 (このIDを非表示/違反報告)
なつみかん(プロフ) - 合格おめでとうございます！！続編めちゃめちゃ嬉しいです！2も楽しみにしてます〜！ (2020年2月18日 4時) (レス) id: a4479fa504 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：零落 | 作成日時：2020年2月16日 15時
