夢中【短編集】 (ページ1)

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人魚の夢ページ1

とある国の話。

その国では、死んでしまった子供は人魚へと姿を変える。
どうしてそうなるのかは分からない。

人魚になった子供は、とても幸せそうな顔で海を泳ぐ。

その国には人魚専門の研究者がいる。
彼らは悠々と泳ぐ人魚を捉え、研究施設で大事に飼い慣らす。
事細やかに身体を管理し、血液を採取する。
そして、その血液を使って、不死の薬を作り出そうと研究する。

人魚に人権は無い。
だって、ヒトじゃ無いのだから。
数が減っても、子供を殺せばいくらでも増えてくれる。
いくら暴力をふっても、罪には問われない。

その国に学校は存在しない。
男の子供は、八割が殺され、残りの二割は肉体労働や子供を生む為の子種となる。
女の子供は、人魚が減っても殺されず、16から子供を生み始める。

人魚は、寿命が尽きると泡となって消えてしまう。
その泡が弾ける時には、鈴のような綺麗な音がする。

ある時、不死の薬が完成した。
人々は喜び、神に感謝した。
大人は皆、薬の入った瓶をカラッポにして笑いあった。

不死の薬の効果は、死ぬ事が出来なくなる。
たったそれだけ。
傷が完治する訳でも、歳を取らない訳でも無い。

胸をスプーンで丁寧にえぐり取られても
脳を箸でゆっくりかき混ぜられても
皺の無い肌なんて無いほどに年老いても。

死ぬ事は…苦しみから逃れることは出来ない。
人々は、呪われてしまった。

そんな彼らを嘲笑うように、人魚達は鱗に太陽の光を反射させ、
晴れ晴れとした顔で泳ぎ続けた。

そして、最期には、鈴の様な音を響かせて消えて行くのだ。