『hope for you,hope for me』四 ページ36
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『……乱歩さん?』
電話口の太宰が訝しげな声で呼びかける。乱歩はゆっくりと振り返ると、通話を切った。
「そろそろ現れる頃だと推理していたけど、思ったより早かったね」
背後に現れていた六院が小さく笑う。そして敵意がないと示すように両手を差し出した。双方の手に、飴玉や駄菓子の詰まった袋が握られている。
「土産です。乱歩さんなら分かって下さると思いますが」
「僕を口止めしに来たこと? 撃つ意思がないこと?」
遮って口早に言う。その通り、と息を漏らした六院は自分を見透かそうとする視線を堂々と見返す。
その細い体躯の輪郭に、乱歩も目を眇めた。この数日だけで彼が少し痩せたような気がする。
気のせいか?
六院は、女神のように微笑んでいる。歴々の悪役がそうしてきたように、超然とした佇まいで。
「無理ですよ、幾ら乱歩さんでも。組織の情報すら手に入らない条件下で、僕から何かを汲み取るのは」
「ACHEs(エイクス)のこと?」
乱歩は鋭く目を細めた。口走った組織名は、今しがた国木田から共有を受けたもの。
六院は一瞬固まり、それでも一回の呼吸の間に元に戻る。苦笑の一つさえ見せないから驚きだ。
「流石に調査が早いですね」
「これからもっと詳しく分かるよ。福沢さんが特務課に掛け合ってる」
午後から居なかったのはその為だった。調査に出たきりの谷崎の方もそろそろ何か掴んでるはずだ。
この追撃には笑みを消すだろうと思ったが、六院はこれまた瞬き一つのうちに消化しきってしまった。ひゅう、と内心口笛を吹く。
太宰、お前の想い人は案外難攻不落だぞ、と。
六院が砂を踏む音を立てて一歩、近寄ってくる。足取りは落ち着き払っている。
「乱歩さん」
「そんなに太宰に言って欲しくない? ギルドとか言う米国の組織が横浜に来るタイミングを読んでACHEsに自分の居場所をバラした事を?」
「……。」
「あ、違うか。バラしたことは本意じゃないんだね。じゃあ別の誰かにやられた。多分協力者だった人間。ただし、タイミングを誘導したのは六院だ」
乱歩の前に隠せる事実はない。六院は静かに言葉を受け流している。何故分かった、と狼狽えたりはしない。冷えたグラスのような佇まいのまま。
乱歩は肩を竦める。聞けることは多くはなさそうだった。
「……大丈夫だよ。みんなには黙ってるから。誰も気付いてない。国木田も谷崎も全員、六院が偶然に接触されたんだと思ってる。」
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リゼ(プロフ) - とても面白くて3週してしまいました(笑)作者様の思い描く物語がどう展開していくのか全く想像できないので、楽しく読ませてもらっております。いつも作者様のこの作品を心待ちにしています!!大変だとは思いますが、頑張ってください。応援しています!!! (2021年7月10日 11時) (レス) id: b15481d520 (このIDを非表示/違反報告)
夜(プロフ) - アバンギャルド・マボさん» わあああ!!お久しぶりです覚えててくれたんですね!!!(´;ω;`) がんばりますーーー! (2021年6月10日 22時) (レス) id: d65e81f2c3 (このIDを非表示/違反報告)
アバンギャルド・マボ(プロフ) - わぁあ待ってました!!再連載ありがとうございます!! (2021年6月10日 17時) (レス) id: 253e5eff26 (このIDを非表示/違反報告)
夜(プロフ) - ういろうさん» ありがとうございます、遅くなっちゃいましたね。できる範囲で進めていこうと思います。コメントありがとうございました。 (2021年6月10日 2時) (レス) id: 2f72b0193e (このIDを非表示/違反報告)
ういろう - とても面白いです!六院さんの破綻された性格がすごく好きです!!続きも気になりますがあまり無理しないでくださいね!応援しています! (2020年1月9日 0時) (レス) id: 03bfdf54f9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:夜 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/Drastic1/
作成日時:2018年3月28日 22時