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『その背を止められやしないから』二 ページ28

あの日。そう彼の離反の日。
正直、朝から厭な予感はしていた。けれど太宰向けに溜まった仕事は虫の報せを放置させる程に大量で。どうにも最近やる気を喪失していたツケが回ってきたらしい。

任務に出て組織に戻るのが夕方になった。車に戻ろうと身を翻したとき懐で携帯が鳴る。

着信画面には六院紫宛の文字。何故だか第六感がよくない事を告げている気配が増した。それを感じる前に、太宰はよく考えないままに通話ボタンを押した。

「やぁ、太宰」

気分の良さそうな澄んだ声だった。中也なら、お気に入りのワインを開けた時に出すだろう声。彼から聞くのは稀だ。太宰は口を開く。


「珍しいね、君から連絡とは。当てて見せようか?」

開口一番に冗談を吹っ掛けると、六院は受話口に静かな含み笑いを零した。

「今日こそ私と心中してくれる気になって入水準備に私の腕と腕を結ぶ紐を買って」

「太宰」

「何だ違うの、それじゃあ中也への最高の悪戯が成功したんだね。よし当てよう、ワインセラーに時限爆弾ドッキリを」

「首領に例の連中の討滅許可を取り付けた」


はっ、と息を吸った。
滑り込む声は弾んでいて、太宰の脳髄を冷やしていく。討滅、の単語から起こりうることを類推して、さらに肝が冷える。


「……君、あの異能を遣おうって云うの。待って、組織の規模は? ポートマフィアすら入手しえなかった情報だけれど、その口調。君は把握しているよね。大多数を相手になんて、幾ら耐性がある君でも死んでしま」

「知ってる」

また息を呑んだ。何とか振り払い、携帯を握りなおして、噛み殺すような声で言う。


「やめろ。すぐに撤退だ。森さんへは私から伝える。」

「従うとでも思うのか?」


呆れを含んだ言葉は、今回だけのものではない。太宰が異能使用を禁止しようとする度、異能を振るう自らを止める度に、六院は呆れを浮かべながら撥ねつけてきたのだ。

だが、今度はそんな真似させない。これが駄目だというのなら、六院の意識を飛ばしてでも止めてやる。

でなければ、彼が疲弊して死にかけ、時に血を吐きながら帰ってくる度に抱いた悪夢が、彼の死なんていう悪い想像に過ぎなかった事柄が、天から降ってきて現実のものになってしまう気がしたから。

最強の手札を切る事にした。今まで、その意思を無理に曲げたくはなかったから伏せていたけれど。

次の太宰の冷え切った声に、近くに控える黒服が気圧された。


「幹部命令だ。今すぐ作戦を中止しろ」

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リゼ(プロフ) - とても面白くて3週してしまいました(笑)作者様の思い描く物語がどう展開していくのか全く想像できないので、楽しく読ませてもらっております。いつも作者様のこの作品を心待ちにしています!!大変だとは思いますが、頑張ってください。応援しています!!! (2021年7月10日 11時) (レス) id: b15481d520 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - アバンギャルド・マボさん» わあああ!!お久しぶりです覚えててくれたんですね!!!(´;ω;`) がんばりますーーー! (2021年6月10日 22時) (レス) id: d65e81f2c3 (このIDを非表示/違反報告)
アバンギャルド・マボ(プロフ) - わぁあ待ってました!!再連載ありがとうございます!! (2021年6月10日 17時) (レス) id: 253e5eff26 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - ういろうさん» ありがとうございます、遅くなっちゃいましたね。できる範囲で進めていこうと思います。コメントありがとうございました。 (2021年6月10日 2時) (レス) id: 2f72b0193e (このIDを非表示/違反報告)
ういろう - とても面白いです!六院さんの破綻された性格がすごく好きです!!続きも気になりますがあまり無理しないでくださいね!応援しています! (2020年1月9日 0時) (レス) id: 03bfdf54f9 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名: | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/Drastic1/  
作成日時:2018年3月28日 22時

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