検索窓
今日:6 hit、昨日:2 hit、合計:39,348 hit

【番外編/届かない慟哭を君に(太宰)】 ページ25

濁った水が一昨日の雨で水嵩を増している。この季節なら、この中は冷たいだろう。そう思ったら、居てもたってもいられなくなってきた。ああ、だめだ、此処は暑くてたまらない。彼の居ない場所は、セピア色に凍り付いて、気味の悪い熱を孕んでいる。

頭の隅で呟く。
あの綺麗な子が死ぬのを見なくて済む方法がある。単純で、誰でも思いつく遣り方が。

でも、それは一つに尽きる。私はその方法しか知らない。他に、知らない。

無意識の太宰の足に蹴られた石ころが、ころりと川に落ちて行く。それに倣うようにして、黒の外套に包まれた身体が水の中に落ちて行った。一切の力を失ったように。

___彼より先に、死ねばいいのだ。




意識が浮き上がっていく。ただの薄汚れた川から母なる海へと流れていたはずの意識が浮き上がり、覚醒していく。目を開くと、白い天井が見えた。ああ、と思った。見覚えがある。ポートマフィアの医務室だ。私は死んでいない。否、死ねなかった。

今更、残念がるのもわざとらしい。溜息を零す。身体を起こそうと力を入れ、その動作で隣に気が付いた。……隣に誰か、居る。

勝手に鳴る喉を抑えて、ゆっくりと、横を向いた。

……その人は。
瞳を閉じて、長い睫毛の影を白い頬に落としていた。想像通りの人だった。
安らかな横顔。眠っているのか、死んでいるのか、判別が付かない。

細い腕に刺さる点滴の針に頭の奥が冷やりとして、布団を押しのける。待て、落ち着け、心電図は正常だから、大丈夫だ。きっと、重症では、ない、はず。

心臓を抜かれた人間のように、緩慢な動作でベッドサイドに近寄る。足が上手く動かない。厭な予感がせり上がる。静かに音を立てないで歩くのに普段以上の緊張を要する。それとも、別の所から来ている緊張なのだろうか。

【番外編/届かない慟哭を君に(太宰)】→←【番外編/届かない慟哭を君に(太宰)】



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.8/10 (162 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
221人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

リゼ(プロフ) - とても面白くて3週してしまいました(笑)作者様の思い描く物語がどう展開していくのか全く想像できないので、楽しく読ませてもらっております。いつも作者様のこの作品を心待ちにしています!!大変だとは思いますが、頑張ってください。応援しています!!! (2021年7月10日 11時) (レス) id: b15481d520 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - アバンギャルド・マボさん» わあああ!!お久しぶりです覚えててくれたんですね!!!(´;ω;`) がんばりますーーー! (2021年6月10日 22時) (レス) id: d65e81f2c3 (このIDを非表示/違反報告)
アバンギャルド・マボ(プロフ) - わぁあ待ってました!!再連載ありがとうございます!! (2021年6月10日 17時) (レス) id: 253e5eff26 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - ういろうさん» ありがとうございます、遅くなっちゃいましたね。できる範囲で進めていこうと思います。コメントありがとうございました。 (2021年6月10日 2時) (レス) id: 2f72b0193e (このIDを非表示/違反報告)
ういろう - とても面白いです!六院さんの破綻された性格がすごく好きです!!続きも気になりますがあまり無理しないでくださいね!応援しています! (2020年1月9日 0時) (レス) id: 03bfdf54f9 (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名: | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/Drastic1/  
作成日時:2018年3月28日 22時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。