『あの日、首領執務室の盤上で』七 ページ16
「ただ去るだけじゃない。ついでに絵を上から塗り替えた」
肩を竦める六院。言葉を続ける。
「首領の目論見に気付いても、坂口安吾の存在は半年後まで見つけられなかったから、不完全で壊れかけのシナリオにしかならなかったけど、それこそが」
失敗作を見せるように、仕方なさそうな顔で微笑み、告げた。
「太宰がポートマフィアに居続ける為の戯曲だった」
これで全部が繋がった。
六院の出奔も、太宰の離反も、首領の手の平で。
半年後、念願通り目論見は果されたのだろう。織田作之助の死を伴って、太宰は居なくなった。
六院の戯曲は破られた。賭けに負けた、という言葉の通りに。
代わりに得たのは、太宰を引き換えにしても余りある異能開業許可証の七文字。
全てを首領が仕組んでいた。
これを知るところなのは古株の広津と、描いた張本人の首領だけ。証拠は時を掛けて消し去られている。
「広津さん」
顔を上げると、六院は目を細めていた。薄茶色の目に薄っすら浮かぶ危うい光に、広津の顔が強張る。
辛うじて表には出さず、指の筋肉の硬直にとどめられたのは、修羅場を潜り抜けた経験と年の功のお陰だ。
「それを知るのは貴方だけだ。今までも、此れからも。中也に真実を伝えるのは止める事にしたよ」
幹部として戻ってきた六院は、昔と余り雰囲気が変わらない。
それが良いのか悪いのか、腹の内が読めないのも相変わらずで。会わない期間が長かった所為か、それとも四年の時が彼自身に変容をもたらしたのか。
広津には心の縁すら掴めない人物になってしまった。
横を向いて、沈みゆく日を見ている。陽は地平を這っていて、終わりかけの残光を投げるばかりだ。
「君は何故、太宰君の為に其処まで動いたのだね?」
「同情したのかもしれない」
チラリと盗み見た表情は、先と変わらない。
「たとえ裏稼業でも、あれにとっては居所だったから。人間、身の置き所があるっていうのは、多かれ少なかれ安心するものなんでしょう」
「そうか」
身の置き所、か。
ふと、六院とはあまり結び付かない言葉だな、と思った。言葉通り、太宰の方が確かに深く身を置いていたと思う。
二人とも黒社会で生きるものと思っていた頃があった?
かつて広津がそうだったように、だけれど、広津よりも余程 簡単に遣ってのけるだろうと。
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リゼ(プロフ) - とても面白くて3週してしまいました(笑)作者様の思い描く物語がどう展開していくのか全く想像できないので、楽しく読ませてもらっております。いつも作者様のこの作品を心待ちにしています!!大変だとは思いますが、頑張ってください。応援しています!!! (2021年7月10日 11時) (レス) id: b15481d520 (このIDを非表示/違反報告)
夜(プロフ) - アバンギャルド・マボさん» わあああ!!お久しぶりです覚えててくれたんですね!!!(´;ω;`) がんばりますーーー! (2021年6月10日 22時) (レス) id: d65e81f2c3 (このIDを非表示/違反報告)
アバンギャルド・マボ(プロフ) - わぁあ待ってました!!再連載ありがとうございます!! (2021年6月10日 17時) (レス) id: 253e5eff26 (このIDを非表示/違反報告)
夜(プロフ) - ういろうさん» ありがとうございます、遅くなっちゃいましたね。できる範囲で進めていこうと思います。コメントありがとうございました。 (2021年6月10日 2時) (レス) id: 2f72b0193e (このIDを非表示/違反報告)
ういろう - とても面白いです!六院さんの破綻された性格がすごく好きです!!続きも気になりますがあまり無理しないでくださいね!応援しています! (2020年1月9日 0時) (レス) id: 03bfdf54f9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:夜 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/Drastic1/
作成日時:2018年3月28日 22時